マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『悪い男』の私的な感想―歪んだ愛情の果てに、二人が辿り着く先は―

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나쁜 남자/2001(韓国)/103分
監督:キム・ギドク
主演:チョ・ジェヒョン/ソ・ウォン

 鬼才キムギドクの問題作。最悪の純愛

この映画は本当にヒトに進めていいんでしょうか?

多分この主人公に共感出来るヒトなんて、ごく一部もいないでしょう。

というより、

大多数のヒトが理解し難い究極のラブストーリーなような気がします。

なので、あえてこのブログでは正面からちゃんと向き合ってみようと。

韓国の誇る奇才、キムギドク監督作品の中でも指折りの問題作品となったこの作品は、あまりの逸脱した設定と脚本にあからさまに嫌悪感を抱くヒトも少なくありません。

それでもこの作品は2001年釜山国際映画祭韓国パノラマ部門・アジア映画振興機構(NETPAC)賞、2002年韓国大鐘賞新人女優賞、同年韓国百想芸術大賞最優秀男子演技賞、同年福岡アジア映画祭グランプリ等、数々の賞を受賞しています。

思春期の女子の変貌ぶりを描いたもう一つの問題作はコチラ
 

 

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―――楽し気なカップルの行き交う昼下がりの街並みで、沈んだ瞳で座っている男、ハンギ。
やがて彼は一組のカップルに目をつけ、徐にその女の唇を奪う。
激怒する彼女だが、運命の歯車はもう狂い始めていた・・

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本当に孤独な時、疲れて立ち直れそうもない時に、あえて自分を底辺まで落とす為に何度かこの映画を見ましたが、いつ見ても胸が苦しくなります。

主人公の男は本当に底辺を這いずっている人間で、そこから立ち上がろうとする勇気も気力もありません。

ヒロイン役のソ・ウォンはこれが二本目の映画出演らしく、まだ屈託のないあどけない少女といった感じ。

そんな彼女が粗野で横暴なやくざの手に落ち、転がり落ちるようにその身も心も蝕まれていく様は、多分女性には耐えがたい描写でしょう。

でも、なぜか、、

そんな男を愛おしく感じてしまいます。

まるで子供の頃、大好きな女子を虐めることでしか愛情表現が表せなかった自分の様に・・

女性からしたら完全にはた迷惑な話で、そんな心のキズを深く刻みつけられたヒトの中には、男性に対し恐怖心を持ってしまった方もきっといるでしょう。

男の天分の性ともいえる幼児性なのでしょうか?

この作品はそんなレベルを遥かに凌駕し、男は女を徹底的に自分と同じ最底辺にまで貶め入れていきますが、その描写が暗いカラーの映像と混ざり合い本当に物悲しく、そして剥き出しの男の愛情を痛切に感じさせられます。

女は当然ながら、そんな男を初めは憎み、忌み嫌いますが、何処かでその箍(たが)が外れる。

一言で言ってしまえば只の洗脳なのでしょうが、女はそんな男の深い暗闇の愛を受け入れてしまう。。

二人の行きつく先には何も無く、何も無いからこそ手を取り合ってしまうという・・・

キムギドクならではの混沌とした世界に魅せられてしまい、こんな最悪の純愛にどこかノスタルジーを感じてしまったのは自分だけでしょうか・・・?

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 逸脱した表現力

最近、韓国の元女優がキム・ギドク監督の行き過ぎた撮影現場での演技指導によって、監督を告訴するという事件が起きました。

これを受けて韓国の映画労組が立ち上がり、現在韓国映画界において俳優の人権を守る為、撮影前に様々な取り決めをしていく傾向が強まっていっているようです。

以下がキム・ギドク監督の釈明文。

この2013年「メビウス」の撮影中に発生したことについては簡単な説明が必要だ。
この女優Aに対しては、海外受賞後監督の知名度が上がった後、出演したいと打診があり、2004年ベルリン国際映画祭にて銀熊賞受賞後にさらに起用を申し込まれた。2005年「絶対の愛」で2人の女優のうち1人としてキャスティングしたが、役が気に入らないと断られた。さらに2012年ベルリン国際映画祭で今度は金獅子賞を受賞した後、再度出演を打診され「メビウス」の母親役にキャスティングしたが、撮影2日目終了時点で一方的に連絡を絶たれ、3日目撮影現場に姿を現さなかったので、プロデューサーが自宅近くに出向いて何度も連絡をしたが結局現場に来なかったため、最終的に予算の関係上、他の俳優を一人二役にシナリオを急きょ書き換えてなんとか撮影を終了した。
「メビウス」自体4年前の作品であるため記憶が確かではないが、演出上の指導のため頬を殴ったことに対しては認め、自分の過ちに対して責任を負いたい。暴力以外の部分はシナリオ上にあるシーンを演出家の立場で最善を尽くす過程で生じた誤解だ。
ともかくそのことで傷を受けたその俳優に心から申し訳なく思っている。
最後に今回のことで本当にレベルの高い映画を作る韓国映画のスタッフと俳優については誤解がないことを願いながら、私を信じて今度の新作に参加してくれたスタッフ、俳優たちにとても申し訳なく思っている。

2017,8,25 Newsweekjapanより抜粋 
 

・・定かではありませんが、更に調べると本作品でヒロインを演じた女優ソ・ウォンも、この作品の現場で精神的に追い込まれ、その後女優業を引退してしまったようです。。

暴力を肯定する気はありませんが、とても寂しいコトな気がします。

ソ・ウォンにとっては可哀そうな出来事でしたが、自分も若い時に少々撮影現場の端くれに居させてもらった経験上、激しい想いがぶつかり合う現場においては、こういう事は時たま起こり得るコト。

強い想いがあるからこそ監督であり、訴えた側の彼女には本当に監督の情熱を受け止める覚悟があったんでしょうか?

ましてや17歳から工場で働き始め泥水をすすって軍隊生活をこなし、短期間低予算撮影をモットーに、ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞まで受賞した稀有な鬼才監督とやるわけですから、現場はさぞ混沌に満ちているでしょう。

俳優にはそれを受け止められるだけの相当な精神力と、狂気の先にある苦しみを理解するだけの忍耐力が求められるような気がします。

この事がきっかけで、韓国映画界そのものが委縮し演出家達の自由な表現力、情熱が失われていかない事を強く願ってやみません。

・・合意したはずの慰安婦問題を戦後70年以上延々と日本に訴え続けるかのように、この問題が尾ひれをつけて堂々巡りにならなければよいのですが。。

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 大分話が脱線してしまいましたが、、

キムギドク作品の根っこにあるものは、ヒトの深層心理にある歪みや矛盾

そんな人間の不条理を、幻想的かつリアルに剔出したこの作品はやはり究極の純愛映画な気がします。

娼館のマジックミラー越しに、暗く沈んだ海辺をバックに、淡々と丁寧に厭世観に満ちた男女の心模様を描いている様は、自分にとってはやはり名作と言う以外に言葉が見つかりません。 

 

『悪い男』
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