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映画『アルキメデスの大戦』の私的な感想―菅田将暉の躍動感。戦争が生む集団心理の悲劇―

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The Great War of Archimedes/2019(日本)/130分
監督/脚本:山崎 貴
主演:菅田 将暉/柄本 佑、浜辺 美波、笑福亭 鶴瓶、小日向 文世、國村 隼、橋爪 功、田中 泯、舘 ひろし

 戦争映画のメインテーマ

戦争映画にアクションシーンはつきものだが、この映画はちょっと違う。

冒頭でいきなり沈没する戦艦大和のVFX以外に、山崎監督お得意の迫力のある戦闘シーンは殆どなく、彼の作品群の中でも極めて異例の映画である事は、まず間違いない。

それならば、男の浪漫だったり、滅びの美学だったりする戦争もののメインテーマは、この映画には存在しないのか?

 

結論から言うと、幕僚監部組織に立ち向かう男のヒーロードラマのこの映画に、血は殆ど流れない。

それでも映画のラストには、何故かしっかりと哀愁が漂い、そればかりか、現代社会との不思議な既視感さえ感じさせてくる。

永遠の0』以降、戦争映画の魅力にすっかり取りつかれ始めた山崎監督は、そこに何を感じ始めているのだろうか?

 

 

 

 

あらすじ
日本と欧米の対立が激化の一途を辿っていた第二次世界大戦前の昭和8年…。
日本帝国海軍の上層部は超大型戦艦「大和」の建造計画に大きな期待を寄せていた。そこに待ったをかけたのは、海軍少将・山本五十六。
山本はこれからの戦いに必要なのは航空母艦だと進言するが、世界に誇れる壮大さこそ必要だと考える上層部は、戦艦「大和」の建造を支持。
危機を感じた山本は、天才数学者・櫂直(菅田将暉)を海軍に招き入れる。櫂の数学的能力で、「戦艦大和」建設にかかる莫大な費用を試算し、その裏に隠された不正を暴くことで計画を打ち崩そうと考えたのだ。
「軍艦の増強に際限なく金が注がれ、やがて欧米との全面戦争へと発展してしまう。そんなことはあってはならない!」と、櫂は日本の未来を守るため、海軍入隊を決意。持ち前の度胸と頭脳、数学的能力を活かし、前途多難な試算を行っていく。
だがそこに、帝国海軍内の大きな壁が立ちはだかっていく・・・。
Filmarksより引用

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 妄執する大衆心理が引き起こす悲劇

いつの間にか、すっかり菅田将暉の魅力に取りつかれてしまった自分としては、スクリーン越しの彼の熱演が久しぶりに観られればそれでよかった。

寄生獣』あたりでは、案外正義の本質を鋭く見極めていたものの、『ALWAYS 三丁目の夕日』からなる同監督のステレオタイプな懐古主義は、イマイチのめり込めない。

クレヨンしんちゃんの映画版をモデルにした『BALLAD 名もなき恋のうた』なんかでは、お得意の映像処理に血迷い過ぎたのか、生の役者の芝居を撮るのがあまりに下手過ぎて、ため息さえ零れなかった。

今回の作品でも、オープンロケーションなのに光や風が全く感じられない不自然なバックのCG処理、トラッキング・ショット(被写体の動きに対し、カメラ自体を動かす撮影技術)からのヨリの甘さ等、映画としては少々大味なカットも目立ったが、それでも俳優との相性だけはすこぶる良かった。

 

菅田将暉自身に躍動感があるので、彼が軍国主義者達の美学に立ち向かおうとするその姿勢は、それだけでたっぷり爽快感を感じさせてくれるものだし、更に彼の緻密な役作りやカットを割らせない程に気合の入った長台詞を披露してくれたおかげで、これまでの山崎作品で感じてきた、アニメのような細かいカット割りは大分鳴りを潜めている。

 

架空の天才数学者と、実在の連合艦隊司令官山本五十六との相性も、案外悪くない。

山本五十六の半生を描いた戦争映画はコチラ

www.mariblog.jp
ともすれば、史実を強引に捻じ曲げた単純な青春グラフィティにもなりそうな予感はしていたが、國村隼、橋爪功等の名優達が、そんなラノベ感をしっかり払拭してくれていた。

史実とフィクションとが織り交ざり、更に登場人物にも実在の人物と架空の人物とが入り混じっているので多少困惑するが、それでも一見堅物に見える、田中泯扮する平山造船中将なる人物の存在感は抜群にいい。

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彼のモデルは、戦中に東大の学長にまで上り詰めた平賀譲という軍人らしいが、その昭和の厳父のようないで立ちからは、不器用だが人間味のある味わい深さが溢れている。

そんな堅物な頑固オヤジ達が、憂いを帯びながらも貫きたかったプライド、そしてその彼らが信念を持って不正に手を染めてく様子は、『新聞記者』でも暴かれてきた現代の国家を牛耳る官僚のそれとも、実はまったく変わらない。

そしてその彼らが譲ることのできない倒錯した正義は、戦時中に現れた半沢直樹ばりの若者の執念と努力の結果、見事に打ち壊されそうになるのだが・・

 

ここでちょっと話がそれるけど・・

昨今、蒙昧な正義を振りかざそうとする若者が異常に多い。

それが、道徳観からくる漠然としたヒロイズムなのか、或いは承認欲求からくる顕示欲なのかはわからないけど、裏街道をひたすらくぐり抜けてきた自分としては、どうしてもこれに苦笑いを浮かべてしまう。

緊張感を増す日韓情勢にも見られる通り、一辺倒の強硬姿勢は必ず相手の反感を買う。

つまり正論を吐く前には、相手の心情をおもんばかる寛容さが必要だったはず。。

 

辛酸をなめながらも、異様なスピードで高度経済成長を成し遂げてきた日本は、ここが他の国に比べても、極めて上手かった。

その黙して語らずともがな、相手の状況を察する事の出来た日本人の奥深さは、いつから薄れてきてしまったのか?

 

この映画の終盤で、対立構造にあった菅田将暉と田中泯は、ある一つの共感性を産む。

その若者のひたむきさと、老害のこだわりとを結びつけるキッカケが、引き下がれない国民の感情論からくるものなのだとすれば・・

 

そして、正義の大ナタを振りかざす事だけに執着してしまっているポピュリストに飲み込まれた軍人の憂いと、日本人独特の滅びの文化とが合致した瞬間に起こりうる悲劇は、ただのフィクションとは到底思えない程に、戦争そのものの虚しさを無性に高ぶらせる。

 

原作の著者三田紀房は、新国立競技場の改修費問題に着想を得てこの漫画を書き下ろしたそうだが、山崎監督その未完のままの戦艦誕生秘話に、大胆なオリジナルの解釈を付け加えた。

その当時の国民感情と現実とのズレをしっかり意識し、戦争の矛盾にもはっきりと折り合いをつけてくれた、彼の研ぎ澄まされた感性はかなり鋭い。

 

集団心理が国家をも飲み込む悲劇に危機感を感じた同監督のメッセージは、戦後74年が経過した今、あの惨事を忘れかけはじめた日本人の心に、いったいどこまで届くのかを、もう少し見極めてみたい衝動にかられた作品だった。

 

「アルキメデスの大戦」
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