マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『カーゴ』の私的な感想―7分間のショートフィルムから生まれたヒューマンゾンビドラマ―

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CARGO/2018(オーストラリア)/104分
監督:ヨランダ・ラムケ/ベン・ハウリング
主演:マーティン・フリーマン/アンソニー・ヘイズ、
カレン・ピストリアス、クリス・マッケイド

 7分間の父と子の感動を長編映画化

『ウォーキング・デッド』の世界では描けなかったゾンビアポカリプスな世界でのもう一つのヒューマンドラマです。

 

2013年、この映画の元となったオーストラリアで作られたショートフィルムは、Youtubeにアップされると同時に全世界で1400万回を超える再生回数を記録し話題を呼びました。

字幕はありませんが7分間のサイレントムービーですので、まずその世界観を先に知りたい方はコチラをどうぞ。


CARGO -(short film)Tropfest Australia 2013 Finalist


BBCドラマ『SHERLOCK』でワトスン役を演じたマーティン・フリーマン、『アニマル・キングダム』で有名なアンソニー・ヘイズ、『ウェントワース』でジャックスを演じたクリス・マッケイド等が熱演しているこの長編版はショートフィルムの時の世界観をそのままに、オーストラリアの風土と文化を上手く融合させています。

長編化した作品に多く見られる辻褄合わせ感は多少垣間見えてしまいますが、この作品の優秀なトコロは何よりもそのテーマ

 

一言で言ってしまえば、

 

自分がゾンビ化した時、自分の赤ん坊をどうするか?

 

この一見シンプルな切り口を究極に掘り下げたゾンビ映画は実はあまりありません。

監督もショートフィルムを手掛けたヨランダ・ラムケとベン・ハウリングが引き続き演出を担当しているので淡々とした静かなテイストはそのまま。

流血やグロテスクなシーンはかなり控え目なので、ゾンビ好きな方には少々物足りないかも。。

しかし逆に言ってしまえばスプラッター系が苦手な方にはピッタリの、ちょっと見方を変えた父と娘のロードムービー感覚で見れてしまう気がします。
  

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―――感染系統不明の未知のウィルスにより、ゾンビアポカリプスな世界でサバイバル生活を送っている親子3人。
ボートハウスでなんとか生きながらえていた彼らだったが、母が父に対するちょっとした気遣いが裏目に出て彼女は感染してしまう。
途方に暮れながらも、まだ赤子の娘を連れ父は彼女を病院へと連れて行こうとするが・・

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 アボリジニの死生観

このゾンビ映画の妙味は、他のアポカリプス映画にありがちなその世界観の設定や説明をバッサリ削ぎ落している点かもしれません。

彼らがゾンビに噛まれてから生き永らえる時間はきっちり48時間以内

他の要素は潔く忘れ、残された時間で父は娘をどう守るかという人間性のみに焦点を当てている構成にはむしろ爽快感すら覚えます。

それぞれのキャラクターの見せ方も中々絶妙で、彼らの少ない台詞や仕草の間にその人格や関係性をさり気なく反映させ、ゾンビ的な怖さよりも人の内面から滲み出る恐怖心を切なく描写しています。

そしてこの作品で長編映画デビューを飾ったふたりの監督が、ショートフィルムから追加した上手い要素は、白人とアボリジニの死生観の違い

物質主義的な白人たちの精神力の弱さをアイロニカルに憂い、復活と再生の世界観を持つ原住民の少女とのコミュニケーションを通じて、ゾンビ化しつつも必死に強く心を保とうとする父の直向きな愛娘への愛情には涙が溢れます。

輪廻転生の意識を持つ日本人には感覚的に近いものを感じられるかも・・

漠然と虐げられながらも深い器を持つアボリジニ達の美学と感性に、終末世界の人の儚さが柔らかく溶け込んだ珍しい感動系ホラームービーです。

 

『カーゴ』Netflixで観賞できます。

www.netflix.com

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