マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『テッド・バンディ』の私的な感想―史上最悪の殺人鬼を愛した3人の女―

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Extremely Wicked, Shockingly Evil and Vile/2019(アメリカ)/109分
監督:ジョー・バーリンジャー
出演:ザック・エフロン、リリー・コリンズ、カヤ・スコデラリオ、ジョン・マルコヴィッチ

 殺人鬼を愛した二人の女

・・聖夜に見るような映画とはとても言えないけどw

 

こんな事を言うと大分誤解を受けてしまうだろうけど、劇中に登場する女達には酷く共感出来てしまう。

ミステリアスな男に、女は何時の世も後ろ髪を引かれるものだし、それが全米中を震撼させたシリアルキラーなら、殊の外納得できる。

 

78年にフロリダ州で逮捕される迄の間、7つの州にまたがり少なくとも30人以上を殺害し、2回の裁判判決で3回の死刑宣告を受けた上に、その弁護団を解雇し、法廷で自らの身の潔白を延々と弁論するIQ160のサイコパス。。

更に2回の脱獄の末、獄中結婚まで果たし、挙句には、子供まで設けるという離れ業をやってのけ、とうとう電気椅子に送られた稀代の殺人鬼の正体に、全く興味が湧かない人というのは稀だろう。

 

更にそれを、『ハイスクール・ミュージカル』シリーズの典型的なイケメン白人俳優ザック・エフロンが演じ、ジョン・マルコヴィッチまでもがその脇を固めるとなれば、少々脚本の粗さが目立ったとしても、十分に興趣をそそられる。

 

監督も無名だったので、伝記映画の一種のつもりで鑑賞してみたが、その膨大な数の猟奇殺人事件には殆どピンスポットが当たらず、ストーリーはテッド・バンディを愛した二人の女の人生に焦点を当てている。

フィル・コリンズの娘リリー・コリンズが演じるリズは、69年の秋にワシントン州で彼と巡り会い、激しい恋に転じる。

映画の原作となった「The Phantom Prince:My Life With Ted Bundy」という回顧録に則し彼女は、その出逢いからの自分の瑕疵を激しく後悔している様だが、もう一人の女性キャロルは獄中のテッドとの間に子供まで設け、彼の無実を最期まで信じ続ける。

彼女もまた、その彼の死刑宣告の末、自白を始める彼に酷く絶望感を感じるが、蒙昧にも、その彼の虜となって死後も魅了され続けている群衆の女性達の顔に、僅かな違和感が広がってゆく。。
 

 

 

 

 

あらすじ

70年代アメリカ、30人以上の女性を惨殺したとされるテッド・バンディ。IQ160の頭脳と美しい容姿で、司法・メディアを翻弄た稀代の殺人犯。
本作では、世界を震撼させた殺人犯の裏側へと迫ると共に、バンディの長年の恋人の視点を通して垣間見えるもうひとつの姿は、観客を予測不可能な迷宮に誘い込んでいく。
シリアル・キラーが最後に告白した、裁判記録にも残されていない真相とは―。
Filmarksより引用

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 テッド・バンディの心理

史実や証言に添っているかと言う点においては、この映画は“テッド・バンディ”を描いた作品とは到底呼べない。

それは109分と言う尺の中では説明しきれない程の膨大な殺人事件の詳細が、殆どうやむや内に終わってしまっているからだ。

けれど、無骨にも殺人鬼側からの心理のみを優先させて描いてみた作品なのだとしたら、その大味なキャラクター設定にも、ぼんやりと輪郭が浮かび上がってくる。

 

典型的で特徴のない体格のテッド・バンディが、ほんの数年間の間で複数の女達の興味を誘いその後殺害できたのは、やはりその見た目が一番の原因だろう。

時に穏やかで知性さえも感じさせるその柔らかな物腰は、僅かな心の隙間の空いた女達の心理を絶妙にくすぐってゆく。。

 

ザック・エフロン演じるその人物像は、まるで青春映画の一ページの様に、彼女達を魅了していくが、その瞳孔の開いた瞳の奥の空虚感は、常に漂い続けるまま・・

つまり、そのステレオタイプだがどこか母性本能を擽る彼のイケメンぶりが、殺人鬼の空っぽの心と絶妙にマッチしてくるわけだ。

 

けれどタイトル通りの殺人鬼の一人称で始まる映画としては、その半生の奥行がどうも中途半端にも感じてしまう。

 

殺害現場はおろか、15分足らずで4人の女性を猟奇的な手法で殺戮したシーンの説明もまったく見せず、劇中のテッドは終始リズに虚しい弁明を続ける。

ある時は電話越しで、ある時は彼女の髪を優しく撫でながら・・

次第に不安と恐怖、疑念が膨らんでいく彼女に、テッドは一辺倒に無実を主張し続けるその様には、ちょっと呆れ果ててしまうけど・・・

 

史実を知らなければ、まるで彼が無実の罪で捕らえられた被害者の様な演出に、ちょっと眉を潜めてみても、その面影にプレテダー(捕食者)としての側面は全く感じられず、物語はいつの間にか終盤へ。。

法廷劇の熱弁もそこそこに、冒頭で登場したリズとの面会室での再会があっという間にやってきた時、ふと彼に急に妙な愛着が湧いてきてしまった。

それは、彼が殺人鬼としての一面でなく、まるで純粋な青年がリズに永遠の愛を求めるかのように、死刑執行が決定した後にも、空っぽの瞳で彼女との再会を喜んでいたからだ。

 

 

 

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 三人目の女

猟奇的な殺人シーンやテッド・バンディの深層心理を大幅にカットされたこの映画には、劇中では語られていない、もう一人彼を愛した女性が実は存在する。

彼の半生を記した様々な伝記に偽名で登場するステファニー・ブルックスという実在の彼女は、その後の彼の蛮行に著しく影響を与えた人物である事は、やっぱり否めないだろう。

彼女曰く、多感な学生時代に知り合った二人は、バンディの幼稚さと向上心のなさが理由であっけなく別れてしまった様だが、サイコパスな視点で読み解けば、これがバンディの自己承認欲求に火を点けたのであろう事は想像に容易い。(後にバンディは、彼女をふる為だけにヨリを戻したりもしている)

 

つまり、レイシストの祖父と操を奪われた相手の名前さえも定かでない従順な母達の間で生まれ育ってきた彼は、その根本から絶対的な愛情というものを知らない。

彼が怪我人を装い、知的で感受性の豊かな若い女性達ばかりをターゲットに選んできたのも、そんな無垢な精神の拠り所を探していたからなのだろう。

 

主演を務めるザック・エフロンがこの作品の製作総指揮に乗り出しているのは、或いは、そんな彼女達への警告と共に、薄っぺらいハリウッドイケメン俳優に見られがちな自分自身に対する憤りを、ストレートに表現してみたかったのだろうか?

 

実際の事件では、テッド・バンディは獄中で複数の女性と文通を交わし、その死後にはノイローゼに陥る女性までいたそうだが、その死刑執行後も心を搾取され続ける女達の顔が、劇中で彼の主張を支持する女達の顔と重なって映る。

 

殺人は単に情欲とか、激情の結果の犯罪ではない

と後に、FBI行動分析チームの特別捜査官ウィリアム・ハグメイアーにテッド・バンディ自身が告白しているが、その身勝手な男の理屈に、なんとなく親近感を感じてしまったのは、若干ソシオパス気質な自分だけの事なのか。。。

 

そんな彼の脳裏に焼き付いて離れないステファニーへの偏愛ぶりは、本作では全てリズへの感情として置き換えられてたが、史実とは少々異なり、死刑前日の最期の瞬間迄、彼女に自分の無実を訴え続けるテッドの様子からは、感情が欠如していても尚、永遠に得れるはずのない無償の愛を求める男の虚しさだけが、じんわりと滲んでいた。

 

「テッド・バンディ」
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