マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『ゴーン・ガール』の私的な感想―虚構の夫婦の肖像画―(ネタバレあり)

GONE GIRL01

GONE GIRL/2014(アメリカ)/149分
監督:デヴィッド・フィンチャー
出演:ベン・アフレック、ロザムンド・パイク、ニール・パトリック・ハリス、タイラー・ペリー、キャリー・クーン、キム・ディケンズ他

 本当の違和感

結婚は理想であっても、現実ではない。

バツイチのまま四十もとうに過ぎてくると、ふとそんな盲信が生まれてくる。

 

アメリカ・ローリング・ストーン誌が選ぶ“2014年の映画ベスト10”にランクインしたこの映画は、そんな全ての寂しい中年男が、責任という言葉から逃れる為のバラードでもある。。

 

ジェニファー・ロペスを始めとした数多の美女との浮き名を流すベン・アフレックでさえ、『セブン』や『ファイト・クラブ』の大成功でスリラー映画界のヒットメーカーにのし上がった監督・デヴィッド・フィンチャーの手に掛かればお手のもの。

コントラストを最大限に抑えたダークタッチの彼の世界の中では、たちまち自分達とまったく同じのダメンズにさえ見えてきてしまう。。

 

そして、フィンチャー映画の与える本当の違和感は、そのヴィジュアルだけに在らず。

群がる群衆やリポーター、監視カメラや愚鈍な警察捜査、或いは同情を引く物語の被害者の家族やその被疑者の身内でさえも、それがメディアに晒される事で変化していく様子を、克明に捉えていく。

・・それが、大コケした彼の監督デビュー作『エイリアン3』を、批評家から辛辣に酷評された恨みからなのかはわからないけど。。。

 

 

 

あらすじ

結婚5周年の記念日。
誰もが羨むような幸せな結婚生活を送っていたニックとエイミーの夫婦の日常が破綻する。
エイミーが突然姿を消したのだ。
リビングには争った後があり、キッチンからは大量のエイミーの血痕が発見された。
警察は他殺と失踪の両方の可能性を探るが、次第にアリバイが不自然な夫ニックへの疑いの目を向けていく。
新妻失踪事件によってミズーリ州の田舎町に全米の注目が集まり、暴走するメディアによってカップルの隠れた素性が暴かれ、やがて、事件は思いもよらない展開を見せていく。
完璧な妻エイミーにいったい何が起きたのか…。
Filmarksより抜粋

GONE GIRL02

 完璧なエイミー”(※以下、ネタバレあり)

フィンチャーのスリラーは、相変わらず一筋縄にはいかない。

通常、一つの事件や狂人の悪意にミステリーの真相を集約する処、人の闇に潜む本能を重層的に積み重ねる事によって、受け手の脳髄に直接響かせる、言わば、バッドトリップの時の様な嫌悪感の広がる刺激がある。

 

劇中で突然行方不明になる妻エイミーにこれといった問題は、始めまるでない。

それどころか、事件の渦中に置かれるその夫ニックにも、歪んだ性癖やサイコパスな一面なんかも一切見えず、物語は淡々と進んでいくけど・・

 

この表層的な夫婦像は、実はメディアの生み出した幻想

数多の悪意に晒されてきたフィンチャーは、この皮肉を露骨に見せないテクニックが非常に上手い。

 

やがて、登場人物の抱える僅かなしこりに受け手側が共感を示し始めた瞬間に、その僅かな期待をも裏切る皮肉が始まる。。

けれど、不思議とそのバッドジョークに違和感を感じないのは、彼の描くキャラクターの欲望が、現実世界の自分達とも直結してるからだ。

虚栄心丸出しのまま、小娘との浮気に耽る夫。
その彼に辛辣な言葉を投げかけるも、見限る事の出来ない彼の双子の妹。
トロフィーワイフであり続ける事を強制させられたサイコパスな妻エイミーでさえ、その狂おしい程の緻密な復讐計画も含め、どこか愛くるしくも見えてくる。

その彼女の歪みの根底にある、彼女の母親が娘をモデルにした児童書「完璧なエイミー」は、勝手な理想を押し付ける万人へ向けての痛烈な皮肉だけど、この映画のアイロニカルなリリックの醍醐味は、もうちょっと違う目線でも、実は存在する。。

 

 

GONE GIRL03

 二つの皮肉

“完璧なエイミー”を演じたこの映画のロザムンド・パイクは、その緊張感と冷静さを同時に兼ねそろえた演技で、その年のアカデミー主演女優賞も含めた、世界各国18個もの映画賞にノミネートされた。

だけど、その強烈なインパクトを与えた虚構の夫婦の肖像画のおかげで、彼女は未だに、次の当たり役に恵まれていない。

役者冥利に尽きると言えばそれまでの話だけど、万人の願う虚像を皮肉った代償として彼女等が矢面に立たされる現象は、昨今の言葉の暴力で自殺に追い込まれた女子プロレスラーのそれと全く同じで、あまりに虚しい。

 

そして、この作品に潜められたもう一つの皮肉は、そのプロットが実際の事件からインスパイヤを受けている点だ。

 

スコット・ピーターソン事件

クリスマスイヴに妊娠8ヶ月の妻を殺害した罪で薬物注射による死刑判決を受けた殺人犯。
誰もが羨む理想のカップル、妊娠中の妻のクリスマス・イヴに失踪は、全米を揺るがした。
スコットとレイシーの家族は、レイシー捜索に乗り出す。
スコットに疑惑がかかるものの、レイシーの家族はスコットを弁護、そんな中、スコットが結婚している事を知らなかったアンバー・フレイが公に出て、スコットと関係を持っていた事を会見で語り、レイシー家族の信頼を失う。
レイシーの母親を含め、スコットは「理想の夫」に思われていたが、スコットの奇怪な言動に疑惑が募り、レイシー家族は、スコットに疑惑を抱いている事を会見で語る。
必死の捜索もむなしく、4ヶ月後に胎児をかかえたレイシーの死体がサンフランシスコ・ベイ岸に打ち上がる。
スコットは逮捕され、2004年にレイシー殺害で第一級殺人、胎児殺害で第二級殺人で有罪判決を受ける。
サン・クエンティン州刑務所にて死刑囚として現在服役中。
彼は今も無罪を訴え、カリフォルニア最高裁に上訴中。

「スコット・ピーターソン: クリスマス・イヴの妻子殺害事件」より抜粋


この夫婦の真実は、未だその全貌が明るみにはなってはいないが、好奇の周囲の目線に踊らされた夫婦のIfの世界に焦点を当てたフィンチャーは流石に鋭く、この映画には、所謂あるていの犯人も悪人もいない

 

虚像の女を只管追い求める夫は、結局、猟奇的な迄の虚構を仕込む妻の本性に気付いても、そのしがらみから抜け出す気力は振り絞れず。

そして、彼の未来に顔を曇らさせる妹や、冷静な判断で犯罪を暴こうとする刑事でさえ、職を失ってでも信念を貫く事は出来ずに。。

更に唯一エイミーの犯した殺人も、諦める見込みのないそのストーカーに、彼女がちょっと早めに引導を渡したのだと思えれば、それもきっと仕方のない事なのだろう。

結局、その復讐の茶番劇からあっさりと身を引いた夫の弁護士と、エイミーからまんまと金をせしめる事に成功した盗賊カップルだけが、この物語の真の勝者と言えるのだけど、世間体や道徳心に捉われない合理的なその生き様こそが、この映画の暗示する裏テーマなのだとすると、それは強烈に寂しく、あまりに苛烈なフィンチャー流の社会への皮肉だ。

 

「ゴーン・ガール」
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