Game of Thrones The Final Season Episode.1/2019~(アメリカ)
製作総指揮:デイヴィッド・ベニオフ、D・B・ワイス
出演:ショーン・ビーン、レナ・ヘディ、ニコライ・コスター=ワルドー、キット・ハリントン、エミリア・クラーク、ピーター・ディンクレイジ他
歴史的な人間ドラマの最終章
ため息が漏れる程映像が美しい。。
数多の受賞歴を持つこの海外ドラマは、まさに全73話にまたがる壮大な人類哲学であり、映画的作りの作品なんだなあとつくづく感じてくる。
・・そんなこのドラマだけは、製作陣の情熱に対する敬意も込めて、あえて敬語を省いて綴らせてもらいますw
圧倒的なスケールの製作費と視聴者数を全世界中で誇りながらも、このドラマには殆ど忖度が感じられない。
それはコチラの記事でも紹介した通り、あまりにも魅力的な登場人物達が次々に悲劇的な最期を迎えていく点に集約される。
人気となった海外ドラマとして有名な『ウォーキング・デッド』や『ウェントワース』でも例外なく、昨今、大抵の連続テレビドラマは視聴者の顔色を伺って登場人物のその生死を決めざるを得ない憂き目に立たされている。
・・或いは俳優のスケジュール次第なんかでも。。
このドラマもその類にもれず、イリーン・ペイン役のウィルコ・ジョンソンが持病の為降板したり、ダーリオ・ナハーリス役のエド・スクレインが『トランスポーター』シリーズの主役が決定した為、マイケル・ユイスマンに交代したりとある程度の蟠りは残るが、それでも視点人物の俳優達がこの作品のキャラクターの演技にいかに没頭しているかは、画面越しによく伝わってくる。
その苦労はGさんのブログでも綴られているように、正に自分達が想像を絶する程の過酷を極めた撮影だったようだが、彼らの執念はきっちりとスタッフにも伝播し、その細かい小道具の数々から美術セット、更にはテレビドラマの質感を大きく変革させた見事なアンバーの使い方で、劇中のキャラクターの表情にくっきりと明暗を浮かび上がらせている。
・・そんなアートの様な世界観の彼らの生き様には、現代にも通じる厭世観がこっそり潜められていないだろうか・・?
ゲースロの私的な推しメンと言えば、やっぱりニヒルでダンディーなジョラーだが、そんな彼には弱く救いを求めながら世の中を彷徨う中年の男の性がしっかり詰まっていて、そのバックグラウンドなんかにも女性への背徳心と贖罪の意識を滲ませるニクイ演出。
前シーズンであっけなく殺害されてしまったベイリッシュには、まさに口先だけで渡り歩く現代の一部の富裕層の狡猾さを見せつけられている様で、それでもその口から最後に真実の愛を語ろうとする仕草は、あまりに切ない。
田舎娘から都会を夢見ていたサンサ、男勝りな性格から闇に足を踏み入れていくアリア、更には見た目の醜さから暴力の世界で開き直っていたハウンドなんかでも、その自分に矛盾を感じ始めた時から放浪の旅を続け、やがて数奇な運命に飲み込まれていく様子は、うらぶれた人生を送る男が求める救いのような気さえしてきてしまう。
そんな彼らが、多忙な現実との狭間で見事に折り合いをつけつつ、長年ストイックに役に没頭しながら届けてくれたこの幻想世界の最期を、いつの日か後世に語り継がれる程の歴史的な群像劇として世に残る日を夢見て、しっかりと瞼に焼きつけていきたい。
『ゲーム・オブ・スローンズ』を未だ未見の方の為の紹介記事はコチラ
以下、『ゲーム・オブ・スローンズ』シーズン8第1話のネタバレを含んだ上での感想です。
まだご覧になってない方はご注意下さい。
ウィンターフェル
アリー家の少年が、木の上からデナーリスとジョン・スノウの凱旋を見つめている。
その様子を眺めるアリアは、久方ぶりにみるハウンドの姿に戸惑いを見せながらも、ジェンドリー達との再会には喜びを隠し切れない。
ヴィセーリオンの亡者としての復活を、ブランから知らされるデナーリス。
ウィンターフェル城内では、サンサも含め三人が諸侯の声に耳を傾けているが、若く聡明なモーモント家の当主リアナは、突然の異国からきた女王の誕生に異論を唱える。
ティリオンはサンサとの再会。
公女の風格たっぷりに成長したサンサの様子に驚きを見せつつも、ジョフリーの暗殺劇の際に容疑のかかった自分を見捨て、ベイリッシュの元へと逃亡した彼女に泣き言をこぼす。
ウィアウッドの木の下でジョンとの再会を果たしたアリアは、いつになく純粋にその喜びを露わにするが、デナーリスの存在を訝しがるサンサの心情にも理解を示す。
ゴールデンカンパニーを引き連れエッソスから帰還したユーロンの船には、捕らわれの身となったヤーラの姿も。
サーセイにその傭兵団の船長ストリックランドを紹介したユーロンは、芝居じみた弱みを見せサーセイとの関係を求めるが・・
束の間の休息の最中、娼館で乱交に興じているブロンの元へ訪れたのはクァイバーン。
彼はドラゴンに一矢報いたブロンの功績を認め、ジェイミーとティリオンが生き残ったあかつきには、サーセイの命令による、彼らの暗殺計画をブロンに託す。
いよいよユーロンに体を許したサーセイは、その粗野で傲慢な彼の魅力を認めつつも、愛情のかけらも示さない。
それでも満足げに立ち去ってゆく彼の背中越しに、サーセイは悔しさを滲ませる。
夜中、そんな二人が寝床を共にしている隙に、捕縛されたヤーラの乗る船に救出に乗り込んでくるシオン。
彼の振り絞った勇気に、頭突きを食らわせ礼を伝えるヤーラ。
そのまま彼女はユーロンの不在の隙に母国パイクの城の奪還を計画するが、シオンはジョンとの合流を望み、二人は契りを交わし別の道を辿る決意を固める。
ダヴォス、ヴァリス、ティリオンの軍師達は、ウィンターフェルの庭で仲睦まじく過ごすジョンとデナーリスの今後の治世を語り合う。
新時代の若者の象徴となる二人を、温かく見守ろうとするダヴォス。
それでも北部の人間の頑なな心象に、一抹の不安を覚えるヴァリス。
ティリオンはその全てよりも、二人の親密な関係に自分の兄妹達の様子を重ね合わせるが。。
ドラゴンの存在に未だ怯えを見せるジョンに、その手ほどきをしているデナーリス。
そして二人を乗せたレイガルとドロゴンは、大空高く舞い上がる。
やがてそのまま雪原を抜け、谷間をかすめ、雪壁を流れ落ちる滝のふもとに降り立った彼らは、人目を忍び熱く唇を重ね合う。
ターガリエン家にわだかまりを見せるサンサに、説得を続けているジョン。
それでも最後には、ジョンの貫く正義を信じている彼女の胸の内を明かす。
しかし、ジョラーの灰鱗病の治療の礼にサムの元を訪れたデナーリスは、彼の家系に当たるホーン・ヒル城主で厳父だったランディルとサムの弟ディコンを、止む無く葬ってしまった事実を告げてしまう。。
生き残っていたべリックとトアマンドは、廃墟となったラストハース城を散策し、トレットの率いるナイツウォッチ達と合流。
しかしその城の中の壁には、アンバー家の少年の惨殺された死骸が掲げられ・・
やがてホワイトウォーカーとして目覚める彼を、べリックは炎の剣で焼き尽くす。
スターク家の家族らが眠るウィンターフェルの地下墓所で、サムとの再会を果たしたジョンは、遂に彼の口から、自らが王位継承権を持つレイガー・ターガリエンと叔母と信じていたリアナとの間に生まれた息子・エイゴンであった事実を知らされる・・・
彼の治世の在り方と、デナーリスの下したタリー家への容赦のない殺戮劇を知らされ、頭を悩ませていくジョン・スノウ。
・・一足先にウインターフェルの城門に辿り着いたジェイミーを、真っ直ぐな瞳で待ち受ける成長したブランの姿に、彼はやがて畏怖の念を抱き始め・・・
・・まさに“再会”をテーマにした印象的なファイナルシーズンの幕開けだ。
初回シーズンぶりとなるジョンとアリアとの再会は、言葉通り、感慨深い時の長さをたっぷり物語ってくるが、ラストのジェイミーと成長したブランとの再会がその綻ぶ気持ちを一瞬で引き締める。
ブランの体に残る傷創は、誰あろうこの男の暗部を知った瞬間から刻まれたものであり、そこから彼の奇想天外な冒険史が幕を明けた。
二人の出逢いは『ゲーム・オブ・スローンズ』の原点であり、その憎しみの連鎖が引き起こす群像劇の始まりでもある。
この緻密に練り上げられた脚本構成が、視聴者のワクワク感を存分に引き立たせている事に異論はないが、それは言い換えれば、繰り返される悲劇の予兆。
ブランを見るジェイミーのその視線は、『マクベス』で言うところのバンクォーの亡霊に怯えるその瞳か、或いは『リア王』で言うところのエドマンドのその死の間際の境地か・・
この辺のシェイクスピア演劇的な叙情を誘う演出はすこぶる上手く、心理的な心の恥部を包み隠さず曝け出していく。。
更にゲースロならではの対比も良かった。
“顔のない男達”に入信してからというものの、めっきり笑顔の見れなくなったアリアと様々な人間達との再会は、くったくない少女だった頃の面影を忍ばせながら喜びを感じさせる。
しかしそれとは対照的に、自信をつけ立派に自分の言葉でしゃべれる男になったサムは、逡巡しながらも、その愛情を残す自分の家系の系譜がデナーリスによって根絶やしにされてしまった現実を知ってしまう。
温厚なサムの顔に滲むあれだけの憎しみは、初めて見たような気がする。。
この喜びと怒りこそが、ゲースロの人間模様を更に奥深い味わいに昇華させ、新たな人災の前兆を否応なしに感じさせてくる。
あっさりとヤーラを救出してしまったシオンにも、その裏切りの償いを示唆するドラスティックな展開がまだ残されているようにも感じられるが、ユーロンの軍門にすっかり応じてしまうサーセイには、流石にちょっと面食らってしまった。
しかし、その苛立ちの募る瞳の奥底には、まだはっきりとジェイミーに対する執着も感じられ、何らかの計略を秘めていそう。
非の打ちどころのない美男美女カップルのジョンとデナーリスには、三羽烏と化したティリオン達の見解同様、微笑ましい新たな国の統治体制の礎になり得ればいいのだが、二人の関係のしがらみになるその出生の秘密を予想よりだいぶ早めに暴露してきたのは、きっとこの恋時の行方にも暗雲が垂れ込めているのだろう。
最終章では全6話しかない尺数で、ホワイトウォーカーとの大戦の様子を詳細に描いてくのはかなりシンドイ気もするのに、夜の王の面影さえも僅かにしか感じさせないのであれば、やっぱりこの物語の焦点は、様々なカタストロフィを生み出してきたそれぞれの登場人物の死に様にスポットライトを当てていく気なのかもしれない。。
ドラゴンやゾンビは、あくまでも人間の卑しさを象徴する為のメタファー。
8年にも及ぶ長期間、様々な感動と憎しみの果ての悲劇を見せつけてくれてきた製作陣は、その思いを深く胸に刻んで、この架空の一大叙事詩の中で繰り広げられる人の世の儚い性と、現実の世界史の闇に消えていった勇者の面影を、しっかり縁取っていくと信じて次回の配信を待ってみたい。
『ゲーム・オブ・スローンズ』は
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