マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『バハールの涙』の私的な感想―戦場の女達が託す尊厳と希望―

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Les filles du soleil/Girls of the Sun/2017(スイス、フランス、ベルギー、ジョージア )/111分
監督/脚本:エバ・ユッソン
出演:ゴルシフテ・ファラハニ、エマニュエル・ベルコ、エヴィン・アフマッド

 実在のモデルとIS

ドキュメントのような悲壮感がたっぷり漂う作品だった。

中東の女達の悲鳴にも似た叫び声がしっかりと聴こえてくる・・

 

前もって言っておくと、この作品は映画的には秀作といえる程の出来栄えではない。

それはディテールではなく、ストーリー上の客観性が極めて低い点にある。

 

従軍する隻眼のジャーナリスト・エマニュエル・ベルコのモデルは、スリランカ内戦の取材時に左目を失ったアメリカ人ジャーナリストメリー・コルヴィンを彷彿とさせ、主人公のバハールは、実際に自らがISによって性奴隷にさせられていた過去から、2018年にノーベル平和賞を受賞したヤズディ教徒のナーディヤ・ムラードをそれぞれ想起させてくるが、その彼女達の主観の対となる過激派側組織の主張がまるでない。

中東情勢に疎い自分としては、異教徒の女達を独自のコーランの解釈の元で性奴隷としてきた彼らのその何故?を知りたかったのだが、彼女らから拉致されてしまう子供たちの様子等も合わせて、支配地域においてはライフラインの整備から警察所や裁判所、更には独自の教育を続ける学校の設置まで行っているIS側の生活様式が全く見えてこない。

黒布に身を包みマシンガンを撃ちまくる彼らの様相は、正に悪の組織そのものにしか見えてこないのだが、監督が生々しい戦場の様子をリアルに見せたかったのだとすれば、敵対勢力の実情等ももう少し見せて欲しかった気もしてくる。

 

しかしそれは逆に言えば、、

 

リアルな戦場では、相手の状況を鑑みる余裕などは全くないという事が言えるのだろう。

自分達の興趣等は、平和な社会で微睡んでいるただの傲慢さであり、寝ぼけた戯言。

彼女達の目の前にあるのは漠然とした将来の目標等ではなく、ただ尊厳を持って今日一日をどうやって生き抜いてくかという希望でしかありえない。

 

監督がそこら辺をどこまで意図してこの映画を作り上げたのかは分からないが、そんな平和ボケしている自分たちにとっては、この作品を通じで今海のかなたで実際に起こっている歪んだ現実の一片をきっちり目に焼き付けておく必要があるのかもしれない。

 

 

 

 

あらすじ
女弁護士のバハールは愛する夫と息子と幸せに暮らしていた。
ある日クルド人自治区の故郷の町でISの襲撃を受け、男性は皆殺されてしまう。バハールは人質にとられた息子を取り戻すため、クルド人女性武装部隊“太陽の女たち”のリーダーとなり、戦う日々を送っていた。
firmmarksより抜粋

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 女達の覚悟と勇気

略奪者からの脱走劇とそこから反旗を翻す様子、更にはそれを追う戦場ジャーナリストの女達の姿には臨場感がたっぷり溢れてはいるが、そこで敢えてバハールの存在自体は実話をもとにした架空の人物である事をまず念頭に置いてもらいたい。

そしてその上で、彼女のモデルとなった同じ境遇の女戦士達が、中東世界の戦場には無数に存在している事実に気づかされると、この作品の味わい深さは倍増する。

そんな彼女達が過去の瑕も癒えぬまま、泣き寝入りせずに銃をもってISに抵抗し続けているという現実は本当に痛ましいが、何よりも胸に響くのは、彼女達が自らの人生をも投げうって子供たちの将来を奪い返そうと奮戦しているその母性にある。

 

監督のエヴァ・ウッソンはそんな彼女達の生の証言を得る為、クルド人自治区や難民キャンプへと幾度も足を運び、更には劇中にも登場する実際のフランス人戦場ジャーナリストから1年以上もの間取材を行ってきたようで、彼女達が戦場の傍らで口遊んでいる「太陽の女性たち」からは、しっかりその強い意志表示が伺えてくる。

その唄が爆風に塗れすす汚れた手で子供を抱きしめているバハールの横顔とシンクロすれば、それは胸が詰まる思いと共に、その子らの将来にしか夢を託せない彼女達の切実な心情に言葉を失ってしまうだろう。

 

バハールの涙とは、その女達の希望の結晶

 

イスラムの教義にも阻まれ、それでも未婚のまま子供たちを愛し抜こうとする彼女達の情念はどれほどのものなのか・・・

その想像を絶する覚悟と勇気には、深い敬愛の念を抱かざるをえなくなってしまうが・・

 

・・それでもどうしても気になってしまうのは、歪み続けていくISの有様。。

 

彼らが掲げる復古主義的な勧善懲悪を求めるがあまり、西側諸国からすればこの映画から受ける印象どおりの自分達こそが悪へと変貌している事実に、いったいどこまで倒錯し続ければ気付くのだろうか?

 

news.yahoo.co.jp

 

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