マリブのブログ

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映画『女神の見えざる手』の私的な感想―ロビイストの孤独と正義―

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Miss Sloane/2016(アメリカ/フランス)/132分
監督:ジョン・マッデン
主演:ジェシカ・チャステイン/マーク・ストロング、ググ・バサ=ロー、アリソン・ピル

 スピーディーな社会派悲劇

物語の最後で作品の印象が全く異なっていく珍しい映画です。

古典的なアメリカンサクセスストーリーと、叙情悲劇。

作品は終盤になるまでシニカルでウィットに富んだ会話劇の応酬なので、英語になれていない方は吹き替えで見るか、疲れていない日に独りでゆっくり見るコトをおすすめします。

 

アメリカのブラックボックスと化した銃規制法案を題材にしたこの映画ですが、この作品の公開から10ヶ月後の2017年10月1日、ネバダ州ラスベガスでは58名もの死亡者が確認された世界史上最悪の銃乱射事件が発生している事も考慮に入れておきたい現実。

日本人にはちょっと疎い米国の銃規制への矛盾が、この作品で少しは垣間見れるかも。

『ゼロ・ダーク・サーティ』で主演を務めたジェシカ・チャステインが演じる”エリザベス・スローン”の演技力は圧倒的で、正直、観賞後は彼女の印象しか残りません。

しかし、そんな彼女の緻密に計算されつくした計画とは裏腹に、映画の最後で彼女から受ける印象はとてつもない孤独感。

ロビイストという天性の生業でしか生きられなかった彼女の空虚な人生譚は、この出口の見えない銃規制問題を薄っすらと暗喩しているかの様です。

  

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―――”エリザベス・スローン”は政治ロビイスト業界では疑いようもない有名人。
数々のデリケートな案件も、彼女の緻密なロビー活動が援護すれば大抵可決させてきた。
そんな折、彼女の敏腕な仕事ぶりを買って依頼をしてきたのは銃規制法案に反対の意を唱える全米ライフル業界だったが、彼女は彼らの依頼を一蹴し、一転、法案の可決に尽力を注ぐライバル会社へと鞍替えする。
圧倒的な資金力を持つ彼らと対立する事になったスローンは、ヘッドハンティングした数名の部下と共に、巨大なアメリカ政財界への挑戦を始める。

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 ロビイストの実情

この映画は、まず日本人にはちょっと馴染みの薄いロビイストの定義から紹介してみます。

ロビイストとは・・

多くの企業および企業団体、利益団体あるいは国家や政府は、自身の利益に沿った主張を広めるためにロビイストを雇っている。ロビイストの活動の重点は、政策の提言やリサーチ、アドバイスだけにとどまらず、実際に行動に移し、実現化することにある。
(中略)

ロビイストを雇用する団体は、多くの場合政治家への政治献金も同時に行っている。このため、ロビー活動が政治の腐敗と関係づけられることも多い。政治家が国民の主義主張ではなく、特定の後援者の利益に沿った政策を唱えることに批判がなされている。

ロビー活動のシステムの支持者は、「政治家が利益団体や選挙区の利益に沿った政策を唱えるのは理にかなっている。民主主義とはそのようなものである。ロビイストはその手助けをしているにすぎない」と主張している。
wikipediaより


日本では総会屋のイメージが強いでしょうか?

しかしアメリカではこれはアンダーグラウンドな世界の話ではなく、一定の知識と経験を有する一つの立派なビジネススタイルとして確立されています。

言わば、根回しのプロと言われる存在で、依頼のあった案件を主流派にし反対派には合法的かつ合理的な方法によってその意向を飲ませるスペシャリスト。

劇中の絶え間ないスピード感溢れるスローン達の会話劇には常時その気迫と緊張感が漲っていて、集中して見ていないと直ぐに圧倒されてしまうほどの迫力です。 

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 スローンの中の正義

・・少しネタバレを含みますが。

映画は冒頭に出てくる連邦議事堂でのスローンに対する聴聞会の描写により、その後の展開を薄っすらと示唆するトコロから始まります。

しかし彼女の圧倒的なまでの綿密に計画し尽くされたロビー活動には終始舌を巻くばかりで、物語の中盤以降まで彼女が如何にして法廷の場に引きずり出されるのかはおおよそ検討もつきません。

そして、、

怒涛のコンゲームの末に、やはり彼女が最終的には成功を収めるのかと思いきや、、

 

映画自体の質は殆どスローンの一人称を追うドキュメントに近く、他の人物との関係性や細かなディテールには少々無理矢理な演出もありますが、彼女の人生全てをかけた生き様にはもはや圧巻の域を超え、尊敬に値します。

その凄まじさは倫理観や友情の上での常識も躊躇なく飛び越え、次第に彼女が悪役にさえ見えてしまうくらい。。

 

しかしこの映画の狙いは正にそこです。

人生を賭してでも貫きたかったスローンの中の正義とは・・?

 

問題定義の仕方と、それに伴う犠牲を描いた作品としては一級品です。

観賞後はラストシーンの寒々しい風景の基、巨大な政治の闇の実態に身震いしながらも、それに独りで対峙してきた彼女を無条件で抱きしめたくなってしまうような、そんな作品でした。

ヨーロッパの孤独な女の半生を描いた映画はコチラ

 

『女神の見えざる手』
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