マリブのブログ

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映画『生きてるだけで、愛。』の私的な感想―本物の感覚を求めるふたり―

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生きてるだけで、愛。/2018(日本)/109分
監督・脚本:関根 光才 原作:本谷 有希子
出演:趣里、菅田 将暉、田中 哲司、西田 尚美、松重 豊、石橋 静河、仲 里依紗

 現代人が抱える孤独

この作品を独りで観るのはちょっとおススメできない。

それは、言ってしまえば貴方の横に救ってくれる菅田将暉はいないから。。

 

自分も含め、この手の映画に手が伸びてしまうヒトはきっと深い疎外感を胸のどこかに抱えこんでいるヒト達だろう。

或いは上辺だけをなぞる社会のシステムに上手く適合出来ずもがいているか・・

 

そんな行き場のない不安心を打ち消してくれる、まっすぐで飾り気のない主人公の趣里の艶めかしさはやけにリアルだが、同時にその彼女の世界観から放り出された瞬間、酷く困惑してしまう。

斯く言う自分も暫くは呆気に取られてしまい、いつの間にかそのまま盛り場へとふらふら足が伸びてしまっていた。

要するにこの映画は、孤独なヒトがその醜態ぶりをまざまざと見せつけられてしまう事によって、更に孤独に陥ってしまう作品。。

 

厳寒の冷たい風が吹雪く中、それでもきちんと自分を見つめ直す勇気がある方たちだけ、現代を生き抜くことさえもままならない若者たちの情動をしっかりとその目に焼き付けてほしい。

 

 

 

 

あらすじ
愛することにも愛されることにも不器用で関係が成就する前に自ら壊してしまうような女。
他人と距離を保つことで傷つきも傷つけもしないけれどすべてをあきらめているような男。
完全に破綻して見える二人が一緒にいるのは、歪な自分を受けとめてくれる相手がお互いに必要だったから。
その内側に透けて見えるのは、私という存在を誰かにわかって欲しい、誰かとつながりたいという強烈な叫びだ。
それを愛と呼ぶならば、まず自分で自分を受けとめなければならない。
生きている限り、自分と別れることはできないのなら、せめて一瞬でも分かり合えたと思える瞬間を信じたい。
だからどうかありのまま愛することを許してほしい、「あなた」を、そして「私」自身を。
『生きてるだけで、愛。』公式サイトより抜粋

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 本質での人間同士の繋り方 (※以下、ネタバレあり)

本谷有希子の原作小説モノは『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』では吉田大八監督のおかげで少々ポップに描かれてはいたが、基本的には根が闇深い。

そんな中でもミュージックビデオやアートフィルムで培われてきた関根光才監督がこの作品で見せる色彩感覚はかなりエッジがきいているが、その全体のトーンは線の細い音色を奏でる世武裕子の劇半によって、流れるようなメロディーそのままに進んでいく。


過眠症と鬱を繰り返し、いつの間にか社会に適合出来なくなってしまった寧子。

夢を抱き出版社に入ったものの、低俗ゴシップ記事に塗れその存在意義さえ分からなくなってしまった津奈木。

この現代社会の闇をそのまま背負い込んでしまったかのような二人の同棲生活は、妥協と調和によって人間関係を維持させてきた人間たちから見ればあまりに滑稽だろう。

家事どころか朝目覚めることさえできない寧子は、怠慢の化身。

思うような仕事にありつけず無気力な生活を続ける津奈木は、我慢を知らない青二才。

 

客観的にそんなナイーヴな若者を一笑に伏してしまうのは簡単だが、それじゃちょっと味気ない。

 

というより、それこそ彼らのベクトルに目を向ける余裕のない大人の自己欺瞞なのかもしれない。

 

そんな風にこの映画を観れると、その印象は一変する。

共依存にもとれる彼らの寄り添い方は、自分たちが失った本質での人間同士の繋がり方

 

劇中に登場する田中哲司と西田尚美の夫婦は、そんな彼らに手を差し伸べようとするが、その在り方はどこか自分たちと同じような乾いた笑い声に満ちている。

或いは、津奈木を追いかけ続ける元カノを演じた仲里依紗の瞳孔の開き切った瞳も。

開き直ってメシの為にと低俗記事を量産する品性を欠いた編集長を演じている松重豊の怪演は正に現代の無神経な大人の醜態そのままだが、そこで声を上げられないまま押し黙ってしまう石橋静可演じる津奈木の部下の様子にも妙に納得がいってしまう。

 

つまり、この作品に登場する全ての登場人物は、無機質で臆病な現代人そのもの。

寧子と津奈木はそんな湿度の低い世界の中で、本物の感覚を互いに求めあう。

 

それは彼女の声色一つでその異変を感じ取る事の出来る津奈木の描写や、それまで彼が買ってきた弁当に文句をつける事しか出来なかった寧子が、それを彼に委ねるまでに成長する過程にもしっかり表されているが、それでも彼らの距離は縮まらず。。

この忸怩たる思いの中で裸の寧子が踊る姿はあまりに美しいが、それは二人の未来に暗雲が立ち込めている事をも同時に示唆している。

 

寧子はラストで、

「アタシはアタシとは一生別れられない」

なんて台詞を霞んだ声で呟くが、そんな彼女を救う事でようやく自我を保ててきた津奈木は、この物語に続きがあるとするならば、その後どうやって寧子に寄り添い続けていけるのだろう?

 

『生きてるだけで、愛。』

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