打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?/1995(日本)/45分
監督:岩井 俊二
出演:奥菜 恵、山崎 裕太、反田 孝幸
思い出の名作映画のアニメ版がまさかの・・
久々に新作アニメを見ました。
若い自分がずっと傾倒してきた岩井俊二映画のアニメ化作品なのでそれなりに期待して見てみたんですが・・
正直、予想を遥かに上回る衝撃でした。
それは自分がうる覚えに覚えていたあの映画とは全くの別物。。
あまりのショックで元の映画を久しぶりに見直してみましたが、やはりこのアニメ版はその根本が大分逸脱している様に感じます。
なので今回はオリジナルの映画版とアニメ版との相違点を見比べ、映画版のおすすめポイントとアニメ版に対する初めての憤りの数々を述懐していきたいと思います。
物語の登場人物と共通ベース
なずな ・・親の都合で2学期からの転校を余儀なくされる主人公の少女。
ノリミチ・・なずなに微かな恋心を抱く少年。
ユウスケ・・ノリミチの親友。ノリミチ同様なずなの事が少し気がかり。
―――夏休みを迎える1学期の最終日。
2学期に親の都合で意図せぬ転校を控えていたなずなは、ノリミチとユウスケのプールでの競争で勝った方と花火大会に行く約束をする。
物語のベースと設定
この作品はもともと1993年にCX系で放送された『If もしも』というドラマ企画の一篇で、自分が覚えている限りでは今でも珠に放送される『世にも奇妙な物語』の確か後番組だったような気がします。
コンセプトはタイトルの通り「あの時、もし別の選択をしていたなら」というパラレルワールドでの二つのドラマを描いていくテイスト。
そのドラマを再編集し劇場公開された映画版の彼らの設定は小学校の高学年。
多感な年ごろの少年期のやり直しのきかない青春、そのノスタルジーをテーマにしていた映画でした。
一方、アニメ版の主人公たちの設定は中学生。
青春時代の淡い思い出というよりは、なずなとノリミチの互いの初恋をテーマにしている作風です。
似たようなシチュエーションですがここで自分が一番痛切に感じた違和感は、オトナへの過渡期にある子供達の話を描いた前者に対し、後者で描いていたのは子供ぽっさが残る青年達の話。。
時代の流れで思春期そのものがズレてきたのか、アニメ版の中学生にしてはあまりに幼過ぎる描写に全く自分達の子供時代の青春を想起出来ませんでした。
なずなの印象
オリジナルの映画版で描かれていたヒロインのなずなの印象はあどけない少女。
岩井ワールドの王道でもあるロリコンチック感は否めませんが、その可愛らしさの原点は色気というよりむしろどこか健康的で無邪気な大胆さ。
対するアニメ版のなずなの印象は、意識的なエロティックなカットが過剰に散りばめられ、スカートの短さや着替えのシーンにも”ヱヴァ”感漂うどこかアキバ系のようなセクシーさが満載。
ノリミチとの「かけおち」を示唆する駅でのなずなの着替え後の様相も、映画版ではちょっと背伸びをした中学生くらいに見えていたのに対し、アニメ版では殆ど現役キャバクラ嬢の様に見えてしまっています。
ノリミチとユウスケ
アニメと実写との違いで少女の描き方に多少の誤差があるにしても、完全に解釈の違いが如実に現れたのは二人の男の子達の様子。
映画版で自分が感じたのはノリミチもユウスケもなずなの事が気にはなっていたが、それはまだ恋というにはあまりに幼い小学生の戯れ言な印象でした。
・・皆さんも経験ありませんか?
クラスの異性と何気なく結婚の約束をしたあの微笑ましい幼年期の日々の事を。
しかしアニメ版ではふたりはなずなに完全に恋に落ち、ラストは彼女を取り合う恋敵にまで発展していく始末。。
つまり映画版で描いていた3人の思いはあくまで恋の芽生えだったのに対し、アニメ版ではしっかりとラブストーリーを軸にして描かれています。
それでいてアニメ版のふたりの様子は余りに稚拙で、そこにはこの作品の根底の魅力である甘酸っぱさが微塵も感じられません。
大人達との関係
これもこの映画の根底に関わる大事な要素の一つなんですが、実写とアニメでは大分相違があります。
映画版でのなずなの転校理由は、母親の都合と「裏切られる血筋」というなずなの台詞から様々なシチュエーションを想起させられるイメージの領域。
しかしアニメ版では彼女の母親には新たに再婚相手がおり、更にその母親にも幾度もの離婚経験や駆け落ちの過去がある事が明示されています。
・・これ描かなければいけない描写なんでしょうか?
ここまで説明されてしまうと、結局なずなは親と同じ因果を繰り返すちょっとアタマの悪い子に見えてしまうんですが・・
更にその母親に連れ戻されるシーンにおいても、映画版ではその大人の現実を垣間見て圧倒されたノリミチが、少し成長し、なずなとの約束を袖にしたユウスケを殴るんですが、アニメ版ではこの一連がノリミチの只の自分自身に対する苛立ちにしか見えません。
つまり、
大人の勝手に翻弄される子供の成長だったはずの大切な描写が、ちっぽけな自分に対する憤りに描きかえられてしまってることに心底落胆してしまいます。
なずなの気持ち
アニメ版には他にも「打ち上げ花火」の疑問自体に対する子供たちの概念、その処理の仕方、パラレルワールドを描く上でのキッカケ等、眉を顰めてしまう発想の安っぽさは上げたらきりがないですが、何よりもこの映画の根幹を揺るがしてしまったのは主人公のなずなの気持ち。
オリジナルの映画版を見た方は大多数が感じていたでしょうが、実はなずな自身にはアニメ版で描かれたような強い愛情はなく、本当はノリミチにもユウスケにもどちらにも恋心を抱いてはいません。
それは映画版のラストの台詞に凝縮されている様に、身勝手な大人の都合に振り回された幼気な少女の寂しさだけ。。。
そんな彼女の切なさに少年たちは思いを巡らし、守りたいと感じ、少年から男として少しずつ成長していくひと夏のドラマだったはずなんですが・・
正直、何故あの岩井俊二がこの作品のアニメ化を承諾したのかを訝しんでしまいます。
とは言え、アニメ化された中で何点か上手く改変された部分もあります。
それはなずなとノリミチがユウスケの目を盗み、二人で自転車に乗って逃げていくシーン。
映画版では手を取り合って逃げるだけの何気ないシーンだったんですが、後ろになずなを乗せて疾走するノリミチの様子にはどこか彼女との妄想旅行へと突き進む決意が感じられます。
そしてアニメ版で一番秀逸だったのは、
ちょっとRADWIMPSの某アニメ主題歌を彷彿とさせてしまいますが・・w
・・多分この作品の趣旨を一番良く理解していたのはアニメ版の主題歌を手掛けた米津玄師だったような気がします。。
・・少年たちにとっての「打ち上げ花火」はただの幼き日のメタファで、その儚さが友達と恋心の狭間で揺れ動いていたあの頃のすべて。
ちょっと穿った見方をすれば、アニメ版で声優を務めた菅田将暉や広瀬すずの15年前に映画版のリバイバルで見て見たかった作品です。
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