47 Meters Down/2017(イギリス)/90分
監督/脚本:ヨハネス・ロバーツ
出演:クレア・ホルト、マンディ・ムーア
減圧症と窒素酔いの恐怖
ディープダイビングでは、1分間に18Mを越えないように浮上していかないといけないというルールがある。
これはダイビング経験者にとって生死を分けるポイントであり、麻痺や呼吸困難、場合によっては意識不明に陥ったまま死に至る減圧症を回避する唯一の手段でもある。
そしてもう一つの水中での怖い現象と言えば、窒素酔い。
これは初心者であれば、水深20mぐらいまで潜ると出てくる可能性のある症状で、ランナーズハイの時の様に一時的にテンションが高くなり、やがて方向感覚や思考能力が失われていく。
かく言う自分も、実は一度与那国島の海底遺跡を観る為に潜った際に、この現象に襲われたことがある。
ダイビングの経験に随分ブランクがあった上に、前日遅くまでたっぷりと泡盛を煽っていた自分が馬鹿なのだが、あの時の恐怖の感覚は未だに忘れられない。。
それは念願だった遺跡を目の前にした高揚感からくるものだと初めは思っていた。
しかし、次第に手足が重たくなり、そのまま海底へと引きずり込まれていくような錯覚に陥り、更には超音波のような強い耳鳴りが聴覚に木霊し続ける。。
幸い経験豊富なガイドが、そんな自分の異変にすぐさま気付いてくれて事なきをえたが、もしあの時近くに誰もいなければ、間違いなく自分は禁断症状に陥りそのまま海底を彷徨っていただろう。
与那国島の海底遺跡は遠浅の沿岸にあり、最大深度は深いトコロでも15m前後。
しかしこの映画で姉妹が取り残される海底の水深は、その3倍以上もの深さ47m。
そんなトコロで、シャークケージに閉じ込められたまま、窒素良いからの幻覚症状に陥った彼女達の状況を想像してしまうだけで、正に鳥肌モノ。。
この映画は、そんな従来のサメ映画の緊張感だけでなく、海の底で身体を蝕む禁断症状の怖さまで盛り込んできた異色のスリラー映画だ。
あらすじ
メキシコで休暇を過ごす姉妹。
ケイト(クレア・ホルト)はホオジロザメをひと目見ようと、“シャークケージダイビング”への参加を計画する。
一方のリサ(マンディ・ムーア)は乗り気ではなかったが、ケイトに説得されて二人は沖へ出る。
保護用の檻に入り、海の中を堪能しているのも束の間、水上の船とをつなぐケーブルに故障が発生し、二人は檻ごと水深47メートルの海底へ落下してしまう―。
ケージは壊れ、船との通信も途絶え、酸素も残り少なくなっていく。
絶望的な状況の中、助けを求める彼女たちに巨大なホオジロザメが牙を剥く―。
"Filmarksより抜粋
シャークケージダイビングでサメより怖いモノ
90分間の尺の中、正味70分近くが水中でのシチュエーションというこの異色作は、傷心旅行がてらのバケーションでメキシコを訪れた姉妹が軽い気持ちでシャーク・ケージ・ダイビングを体験するトコロから物語が始まる。
そしてサメ系パニック映画の定番と言えば、やっぱり『オープン・ウォーター』や『ロスト・バケーション』のような神出鬼没の生物のスリリングさが醍醐味だが、この映画でそれは恐怖のエッセンスの一つに過ぎない。
しかし逆に言ってしまえば、サメそのものの怖さよりも、深海での人間の恐怖を際立たせる演出の方に比重が置かれている為、ダイビング経験のない方にはイマイチ分かりづらい印象を受けてしまう作品かもしれない。。
海の中は精々15mも潜れば人は自然に浮上できなくなり、それが47mまで垂直に落下したケージの中ともなれば、よほどのダイビング経験者でもない限り、まず鼓膜を破るような強い耳鳴りに襲われている事だろう。
更にこの程度の深度では、血の色や赤系統色の識別は困難になり、ウェットスーツもきていない状態では、きっとその肌を刺すような寒さも想像を絶している。
映画を観ていけば、ケージからの脱出後、さっさと自力で浮上していかない彼女達に苛立ちを覚えるかもしれないが、それは前述した通り、減圧症と忍び寄るサメの危険性からの恐怖が地味にボディーブローをかましてくるからだ。
そしてそんな風に焦れば焦る程、エアーは減ってゆき、彼女達が残圧計に表示されたタイムリミットに目をやる時の絶望感と言ったら・・
そしてラストはお決まりの救出劇が待っているようだが、そこで思い出してもらいたいのが窒素酔いの禁断症状。
暗い海の底で様々なトラブルに見舞われたビギナーダイバーの彼女達が、大したパニックも起こさずに淡々と試練を乗り越えていくのは、どうも都合が良過ぎる。
そんな風にダイビング経験者ならば誰しもが思うであろう素朴な疑問は、監督がきっちりと回収してくるのでご安心を。
つまり、彼女達の体験は、何処までが真実で錯覚なのか?
ここでちょっぴりネタバレをしてしまうと、、
ラストにレスキューダイバーによって助け出される事になる姉妹の片割れは、浮上していくと共に海面から差し込む光の中で涙を見せる。
その涙が安堵からくるものなのか、絶望感の中で零れ落ちるものなのかの解釈でこの映画の顛末は180度見方が変わってしまうが、自分と同じような厭世観をたっぷり注ぎ込んで見てもらえれば、彼女の両脇を抱え上げるダイバー達の足元のフィンでさえ、獲物を囲むサメの尾ビレのように見えてくる幻覚を体験出来るかもしれない。。。
「海底47m」は
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