マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『クワイエット・プレイス』の私的な感想―正体不明のクリーチャーが包み込む沈黙―

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A Quiet Place/2018(アメリカ)/95分
監督・脚本:ジョン・クラシンスキー
出演:エミリー・ブラント、ジョン・クラシンスキー、ミリセント・シモンズ、ノア・ジュープ

 リアルな質感が揃った究極のサバイバル

たまたま知り合いの紹介で試写会で見せてもらったのだが、スリラー映画にしてはあまりに奇抜な切り口に驚かされる。

タイトルの“クワイエット・プレイス”を直訳すると“静かな場所”となるけれども、95分間殆ど台詞のないスクリーンに対峙している観客の目線そのものが、映画の主旨と絶妙にマッチしていて緊張感を醸し出す。

 

監督兼助演を務めるジョン・クラシンスキーは映画『最高の家族の見つけかた』で2016年に監督デビューをした若い俳優だが、元々作家志望だった彼は今作の脚本直しにも積極的に携わっているようで、丁寧な画づくり感が随所に溢れている。

 

2010年に結婚した実際の妻であるエミリー・ブラントを主役に向かえたあたりに痴話ムービーなニオイがするかと思いきや、意外にそんな印象も受けない。

彼女は実際の妊娠期間中にこの作品の脚本を夫が手直ししたのを読んで出演に強く意欲を示した様だが、全く違和感なくこの退廃的な世界観に溶け込んでいるのは、彼女の目線が夫よりも常に子供たちに向いているからだろう。

彼女自身の実体験が相まって感情の箍が外れたのか、映画『プラダを着た悪魔』で見せていたいつもの上辺だけを取り繕ったような上品さはこの作品からは殆ど感じられず、ただ子を思うだけの母親の必死の本能がスクリーンからヒリヒリと伝わってくる。

 

二人の娘で耳が聴こえないリーガンを演じたミリセント・シモンズは、映画『ワンダーストラック』等にも出演している本物の聾者だが、彼女がそこら辺の子役らとは一線を画す巧みな演技をしているのは、実際の聴覚障碍者ならではの研ぎ澄まされた感覚と圧倒的な想像力の賜物なのだろう。

そんな重畳的に折り重なった様々なリアルな質感がたっぷり詰まったこの作品は、近未来の絶望的な状況下での恐怖と究極のサバイバルドラマ、そして深い家族愛をしっかりと観客に届けてくれる。

 

往年のサイレント映画は殆ど見たことはなかったが、この作品の様な台詞が殆どない中で自分の感情の起伏を示す表現方法は、

「きっと、映画で思いを伝える原点にあったはずの大切な感覚なのかもしれない。。」

なんて、静まり返った劇場内で妙に真剣に考えさせられてしまった。

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―――異常なまでに発達した聴覚を持った生物が襲来してきてからの世界。
彼らは音を出す全ての生き物をその鋭利な両腕で切り裂き、人間は全くの静寂な中での生活を強いられるようになった。
町はずれの郊外に住むアボット一家は、そんな無音の世界の中でも様々な工夫を凝らし生き抜いてきたが、まだ幼かった末っ子のビューは、姉のリーガンが抜いたはずの乾電池をおもちゃに再び入れて作動させてしまい、あっさり惨殺されてしまう。
彼らは惨劇の中でも沈黙を保ち続け、それでも必死に生活を続けていくが・・

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 原始生活での父、母の在り方 

アイオワ出身の二人の原案者・スコット・ベックとブライアン・ウッズが、

「無音の静寂とそれを断ち切る恐怖の連続に、観客は他では経験したことの無いような、予測不可能なジェットコースターに乗ったような経験をすることになる」

と言っているだけの事はあって、荒廃した街の細部や俳優らの仕草一つ一つに至るまで、絶妙な緊迫感がこの映画の中にはふんだんに盛り込まれている。

台詞が極端に少なく、観客が妄想を膨らませられる時間がたっぷりととられているのはこの映画の特徴でもあり、アタマで考えず感覚で感じる恐怖が劇場には終始漂っていた。

 

脚本も相当に練り上げられている様で、無音の中、冒頭の10分で家族構成から兄弟愛、更にはアポカリプスな世界の実態やそれぞれが抱えるトラウマまできっちり伝えてくるなんて・・

この手の演出は、王道だけれどもシンプルな映画作りの原点をしっかり教えこまれている様な気がして、監督としては新人と言えども、クラシンスキーの演出家としての今後の才能にも結構期待が持てそうだ。

エミリー・ブラントはそんな彼に身をゆだねるように、ただ必死で子供を守り抜く母親であり続け、そしてそれを受けた夫が手話で子供たちに愛を伝えてくる描写なんて、もう、ただのスリラー映画とは思えない程に感情を高ぶらせる。

 

あらゆる音に反応するクリーチャーのデータを取り続ける夫、手話で会話し続ける家族の風景、彼らが住む森の中の家へと続く道に敷き詰められた砂等、徹底した静音空間を作り上げている状況下の中で、あろうことか妊娠する妻という設定も、実生活とリンクさせた監督の命の尊さを極限にまで追求したかった強い意思表示だったのかもしれないが、というコトは、、

 

結局は、リア充を満喫しているジョンとエミリーのランデヴー映画だったのだろうか・・?

 

それでも造形に凝った異形のクリーチャーの圧倒的な質感と、その厭世観がたっぷり漂う中での家族の強い絆には、どうしても溜息が漏れてしまう。

お約束のラストシーンも、原始的な生活の中での父性、母性の在り方をまざまざと見せつけられている様な気がして、もう何だかカッコ良すぎて、ちょっとズルイ。。

 

『クワイエット・プレイス』
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