Black Hollow Cage/2017(スペイン)/106分
監督:サドラック・ゴンザレス=ペレジョン
出演:ロウェナ・マクドネル、ジュリアン・ニコルソン、エデ・リサンデル、マーク・ピゲネル、ウィル・ハドソン
黒い箱の謎
ここまで静かなサスペンス映画も珍しい。
カメラワークは恐ろしくゆったりとしていて、シンメトリックな構図や情緒的な風景描写は、疲れきった夜に観るにはあまりに危険すぎる。
劇中の音楽や効果音も最低限に集約されているこの作品では、監督が故意的に全ての説明をカットしているようなので様々な解釈が可能なのだけれども、自分にはこの原題の“Hollow Cage”という単語がどうしても引っかかる。
父が起こした自動車事故の果てに、最愛の母と右腕を失くした少女アリスを巡るこの物語は、彼女が森の中で見つける事になる黒い箱の正体に全ての謎が詰まっている。
映画『GANTZ』に出てくる黒い球さながらに唐突に出てくるこの物体は、何時誰が何の目的で生み出したものなのだろうか?
幸い劇中の謎はこの1点に絞られているので、ストーリーを追うごとにその想像は膨らんでいく。
アリスも含めて登場人物はたったの5人+1匹の犬。
事故のトラウマからか、父親への当てつけか、その犬を母と呼び続けるアリスの歪な情動だけはイマイチよく理解出来なかったが、あらゆるトーンを極力抑えたアートなサスペンスの中で、少女の現実と幻想を織り交ぜた作風は現代的なタイムリープの可能性を予期させる。
“Hollow Cage”が意味するもの
戯曲の様に全5幕に分かれて構成されているこの作品は、ちょっと油断すると直ぐに睡魔に襲われてしまうが、逆に言えばそれ程心地良く感じるカットが数多い。
森を写し出すカットは緑を存分に映えさせる見事な描写で、まるでシェイクスピアの演劇を観ているかの様に叙情的。
その森の中に立つ彼らの家の造りは映画『ショートウェーブ』に出てきた様な前衛的でハイセンスなデザイナーズハウスだが、中庭から屋内の人物の位置関係が一目でわかる構造には、監督であるサドラック・ゴンザレス=ペレジョンが観客にこの映画の劇中劇を示唆していたのではないだろうか?
ちょっと説明不足なこの映画は順を追って整理してみると、
①腕を失くしたアリスがSF的な義手をはめる所から物語が始まる。
②彼女が腕を上手く操れずに苛立ちを募らせていると森に黒い箱が現れる。
③森で怪我を負った姉弟が父親に助けられるが、彼らの目的は姉エリカの彼氏デイビッドによる父親への復讐。(デイヴィッドの親は自動車事故の被害者)
④黒い箱からのメッセージによりアリスはその警告を受けるが、父親は結局デイビッドによって殺される。
⑤途方に暮れたアリスは黒い箱に救いを求め、タイムリープ。
⑥過去に戻ったアリスは父親を殺される前のアリスと入れ替わり弟ポールまでは殺すが、やはり自分はエリカに殺されてしまう。
⑦それを見た現在のアリスは、父を黒い箱に連れてゆき彼を過去に戻す。
⑧過去に戻った父はエリカ達を監禁し、過去からきたアリスがデイヴィッドを殺害。
劇中では描かれていないが、タイムリープしてくるアリスの台詞から察するに、彼らはこの過程を幾度かのパラレルワールドの末に達成している。
そしてこのシークエンスの中で、アリスが3本のシリンダー(円筒)で義手の訓練をしている描写が織り交ぜられているが、つまり黒い箱の正体とは彼女がこの特訓の過程で開花させた新しい能力の結晶なのだろう。
そして⑥の過程でアリスが入れ替わった際に説明が端折られているが、過去からきたアリスは自らの死によって、彼女の能力を証明したのではないだろうか?
こうして力の存在を立証されたアリスが、徐々に自信をつけてタイムリーパーへとなってゆくわけだが、ここで上述した“Hollow Cage”の訳が気になってくる。
直訳すると空洞、中空の檻といった意味合いの言葉だが、なぜアリスが得た画期的な超能力を監督はこのようなダークな質感で表しているのだろうか?
“Hollow”と言う単語には、どうしても”空しさ”、或いは“虚ろな”といったニュアンスが込められている様な気がする。。
つまり、劇中劇から抜け出し、過去をやり直そうとしているアリスには実は初めから希望が持てないかのような・・・
不意に現れたエリカに心を奪われる様子や、自らが過去に戻ってその過失を正そうとしない父の不誠実さも含め、妻を真摯に愛してきた様には到底見えない彼の所作にはかなりの不安が残る。
スペイン産の映画なのでその辺の細かいニュアンスは著者の妄想が過ぎるのかもしれないが、ラストシーンでアリスに車の鍵のありかを伝える父親の空洞さながらの虚ろな瞳からは、自分はちょっと闇深いダークファンタジーな質感を感じ取ってしまった。
『黒い箱のアリス』は
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