マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『リリイ・シュシュのすべて』の私的な感想―青春の瑕と夏の匂い―

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All About Lily Chou-Chou/2001(日本)/146分
監督・脚本:岩井 俊二
出演:市原 隼人、
忍成 修吾、蒼井 優、伊藤 歩、大沢 たかお、稲森 いずみ

 透明感のある青春の瑕 

『スワロウテイル』でそのセンシティブな世界観を描ききった岩井俊二が、原点回帰したとも言える映画がこの作品。

最近一部の若い世代の岩井俊二をリアルタイムで知らない人たちの間では、彼の評価をどうもトリュフォーやゴダールらのフランスアート映画界の巨匠の様に語られる傾向があるようですが、そんな小難しいものではありません。

彼の映画の特徴は、人のリアルな感情を非リアルな音楽に乗せて、幻想的な描写にボカして伝えてくるトコロ。

映像上の不文律を壊した上で訴えかけるナイーヴな世界は、何時の世でも彷徨うデリケートな若者たちの心に少々エッジの効いた映像美として残り続けます。

 

この映画はその象徴とも言える彼の裏の代表作

思春期の瑕疵といじめによって歪んでいく少年の様子が、生々しくリアルに描写されたちょっと胸が痛くなる青春映画。

 

とは言え『13の理由』のようにそれを重苦しく描いているわけではないので、深く考えさせられるというよりは、誰もが成長と共に何処か心の隅に追いやったほろ苦い思い出を想起させます。

 

それはまるで、夏の雨上がりの日の草木の匂いの様に。。

 

劇中に出てくる創作上のアーティスト、リリィ・シュシュは、そんな僅かな心の瑕を負った人たちの逃げ場所でありエーテル

ゲーム好きな方でもないとこのエーテルと言う表現がいまいちピンとこない方も多いでしょうが、ココがこの作品のポイントです。

 

ゲーマー的なニュアンスで言えば、、

薬草でも宿屋でもポーションでもなく、MP(マジックポイント)を回復させるこのエーテルこそが、まだ夢が魔法の様に叶うと信じていたティーンエージャーの希望です。

 

もう夢があまり上手く見れなくなった平成最後の夏の終わりに、ちょっと異世界に迷い込んでみたくなった方にはちょうどいい映画な気がします。

 

 

 

―――雄一が星野と出逢ったのは中学の一年生。
何かと目立つ存在だった彼の家に遊びに行った時に、雄一は「リリィ」と出逢う。
以来、熱狂的にリリィの音楽に傾倒していく雄一とは対照的に、星野は夏休みが明けると共に大きく変貌。
それまで星野らをいじめてきた少年・犬伏を返り討ちにした時から、彼の風体も徐々に歪み始め、それまでの雄一たちとの清らかな友情は凄惨な恐怖へと姿を変えていく。。 

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 同時進行していく二つの世界

この映画の特徴はまず、同時進行していく現実と仮想空間を幻想的な映像美の中に文字キャプションとして随時挿入させているトコロ。

カタカタと小気味のいいPCの入力音共にリロードされるこの心の声は、主人公の雄一を中心とした二次元の世界でしか悩みを打ち明けられないネット住民の叫び声です。

その痛々しさは正に、死にたいわけではないけれど生きる希望を見失いつつある現代人のそれを情緒的に表し、切ない程にリアル。

更に実はパスカルのハンドルネームで岩井俊二監督自身もこの劇中の創作ネット住民として登場しており、痛々しくも儚い人々の魂がエンドロール上でもその音色を刻み続けています。

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 意外にも豪華な出演者たち

今ではすっかり情熱男の代名詞のようになってしまった市原隼人のデビュー作でもあるこの作品には、忍成 修吾、蒼井 優、伊藤 歩等の他にも意外な人物が出演しています。

まず劇中の不良少年に恐喝される成金男役には『シン・ゴジラ』『進撃の巨人』シリーズで有名になった監督の樋口真嗣

彼は元々岩井映画の大ファンだった事を公言している通り、前々から同監督の作品への出演を熱望していたそう。

そして雄一たちが一夏の沖縄旅行に旅立った先で登場してくるインストラクターやバックパッカーには、近年めきめきと個性派俳優の地位を確立し始めた市川実和子や大沢たかおの姿も。

更に雄一の友人役や先輩役として当時から子役業界では有名だった勝地涼や高橋一生らも実はちょっぴり出演しており、現代の邦画業界の礎的に数々のキャスト、スタッフらが同監督の作品に強く影響を受けてきた事が伺えてきます。

  

 

 

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 岩井俊二の遺作

現代のSNSの先駆けにもなったブログへの書き込みから加速していく心の瑕を題材にしたこの映画は、ブロガーにはもちろんの事、現実社会の中で居場所を失いつつつあるヒト達にはどこか胸に響くテーマのはず。。

2018年8月現在も運営されている架空のアーティスト・リリィのファン・サイトLily holic(リリイホリック)では、今でも熱狂的な岩井ファンがひっそりと書き込みを続けている様に、彼の創り出す映像は退廃的な世界に迷い込んでしまった人たちの究極の癒しの場なのかもしれません。

少々表現自体がイタイタしく感じられるかもしれませんが、この心の澱みそのものを、アラベスクの旋律にのせて、或いは色彩豊かな映像美やカメラワークで表現し続ける岩井作品には、何時までも色褪せない何か強烈なものを感じさせてくれます。

 

『リップヴァンウィンクルの花嫁 』以来3年ぶりに新作映画『Last Letter』の制作を発表しその作品を集大成と位置付けた同監督が遺作と称して創り上げたこの映画で、彼の独特で繊細な幻想空間をもう一度追体験しているみるのはどうでしょうか?

 

「リリィ・シュシュのすべて」
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