マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『ベルリン・シンドローム』の私的な感想―崩壊した壁に囚われ続ける男―

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Berlin Syndrome/2017(オーストラリア)/116分
監督:ケイト・ショートランド
出演:テリーサ・パーマー、マックス・リーメルト、マティアス・ハビッヒ

 絶叫クウィーン・テリーサ・パーマーの新境地 

監禁モノの映画にしては何だかあまりに切なすぎてちょっと泣けてきます。

 

『ウォーム・ボディーズ』からのゾンビにも愛される可愛らしさからか、テリーサ・パーマーが今回愛されてしまうのは、東ドイツの悲劇に取り残され続けるサイコパス。

『呪怨・パンデミック』『ライト/オフ』からの絶叫が大分板についてきた彼女は、近ごろではホラークウィーンのような存在になってきましたが、この作品ではそんな彼女の少々繊細な一面も垣間見えます。

 

DDR(ドイツ民主共和国/旧東ドイツ)の独特な閉塞感に魅せられた少女が旅をするスタイリッシュなロードムービーの様に始まり、病んだ男の監禁生活に陥る彼女の恐怖心は、それが何時から始まったものなのかその境界線があやふやです。

最初、彼女の方が恋心を抱くことになるアンディ演じるマックス・リーメルトは、東欧らしい吸い込まれるようなブルーアイズが魅力的なリアルな東ベルリン出身の俳優ですが、その裏に潜む闇は写さず。。

乾いた声で会話する二人には、その裏に常に張り詰めた空気が漂い、殺風景な建物と寒々しく広がる空が絶望してゆくテリーサ・パーマーの心象風景を見事に表現。

監督のケイト・ショートランド自体『さよなら、アドルフ』でも描いていたとおりどうも東欧文化への関心が高い様で、ショッキングなスリラーというよりは、静かに漂い続ける緊迫感がなんとも味わい深いミステリーです。

 

 

 

―――東欧世界に憧れ、ブリスベンからベルリンにやってきたクレアは、気ままな旅をするバックパッカー。
様々な建築物の写真を撮りながら彷徨い歩く彼女は、英語教師を務めるアンディに街で声をかけられる。
言葉が通じない異国情緒の中でクレアは急速に彼に恋心を覚えるが、ベルリンの壁の崩壊と共に過疎化が進んだアンディの集合住宅へと連れてこられた彼女は、そこで思いもよらなかった悪夢に直面する。。 

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 閉塞感に捕らわれた男の末路

相変わらず姑息な恐怖心を煽る日本版のパッケージのおかげで、『ソウ』シリーズのようなソリッドシチュエーションスリラーを期待して見た方には大分酷評されたようですが、この作品の見所は王道の脱出ディテールにはありません。

 

夢描く少女が陥る甘い恋の落とし穴的な、ちょっと淡い青春の影に潜む倒錯した人間。

『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』でも描かれていた旧態依然の東ドイツの内情をある程度理解していないとその真意は読み取れないのかも。。。

 

一見明るい好青年の様に写るアンディの心を封じ込めているのは、言ってしまえば社会主義国家の閉塞感の中で培われた闇です。

 

ベルリンの壁の崩壊で自由になったはずの境界線を未だ跨ぐことが出来ない彼の歪な感情の裏には、劇中の彼の父親との会話にもあるように、工業国家の苦海から抜け出し彼らを捨てて出ていってしまった母親の喪失が深く関わっています。

それは年老いた父親を見捨てられないが故に、過疎化が進んだアパートに心を囚われ続ける閉塞感や、友人のパーティーで気を使ってくる女や教え子の少女フランカの誘惑にさえ、媚びを売る女としか見えない彼の屈折した心。

 

そして最も印象的なのは、「人生を振り返る」という英語を「人生を埋め合わせる」
とネガティブに間違ってしまうその厭世観にこの映画に漂う闇が全て集約されています。

 

よく言う「影のある男に女は惹かれる」的な要素でそんな彼に近づいてしまう幼いクレアは、その本当の影を見てしまった時にはもう身動きが取れず。。

英語に精通したとしても、スポーツ学校の英語教師という仕事でしか生計を立てられないという皮肉も、旧東ドイツ出身の貧困層上がりの実態をさり気なく表現している様な気がしてきます。

 

そんな彼のカタストロフィに僅かに同情を感じてしまったクレアだからこそ、彼女は監禁生活が始まった後にも、アンディと肉体関係を持ったのではないでしょうか?

 

しかし、自由を求め旅を続けていた彼女は、それを決して諦めようとはせず。。

 

人の心理描写にあまりに重点を置き過ぎた為、ラストのクレアの脱出の経緯が少々乱雑だった気もしますが、ストックホルム症候群から発展したあまりにも切ないもどかしさを感じさせる、新しいベルリン症候群の末路を描いた画期的なスリラーでした。

 

「ベルリン・シンドローム」
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