Donnie Brasco/1997(アメリカ)/126分
監督:マイク・ニューウェル
主演:アル・パチーノ、ジョニー・デップ/マイケル・マドセン、ブルーノ・カービイ、ジェームズ・ルッソ、アン・ヘッシュ
どこにでもいる家庭的なイタリアンマフィア
・・映画紹介も1年を超えてきたので、これまで恐れ多過ぎて感想さえ手が出せなかった、アル・パチーノ映画をそろそろ。。
愚行を繰り返すがあまり、とうとうディズニーからも見放されてしまったジョニー・ディップを自分が初めて目にしたのはこの作品だったが、彼がその後目指す俳優の方向性を決定づけたのも多分ここだろう。
『ギルバート・グレイプ』の頃より色気を増し、『シザーハンズ』で若者の心をガッツリ捉え始めていた彼の本来の弱さや臆病さ、更にはその奥に潜む家庭的な優しさなんかは、この映画に登場するFBIの特別捜査官、ジョー・ピストーネ扮する架空のチンピラ“ドニー・ブラスコ”の役柄にまさにピッタリ。
けれどそんな寂寥感を遥かに凌駕するアル・パチーノの哀愁を目の当たりにしてしまった時から、彼の戸惑いは始まる。。
実在したニューヨークの五大マフィア・ボナンノ一家を壊滅に追い込む為、組織の下っ端“レフティ”の相棒として裏の世界に潜り込んでいく彼は、やがて徐々にその心が蝕まれていく。
それは彼の正義感からというよりも、直ぐにヒトを信じてしまうマヌケなイタリアンマフィアのレフティを演じたアル・パチーノが、自分と全く変わらないどこにでもいる家庭的で人のいい男そのものだからだ。
対するアル・パチーノは、彼の最高傑作『ゴッド・ファーザー』のマイケルとは全くの正反対の小物ぶりを存分に見せつけてくれるが、それでも彼のギャングスター的鮮度は全く色褪せない。
正直、男の憧れを徹底的に突き詰めたマイケルよりも、より繊細で小心者、更には自分を大きく見せようともがくレフティの方が、よりリアルなアル・パチーノの実寸大のイメージにかなり近い様な気さえしてきてしまうくらい。。
その彼のハスキーボイスも、まさしく裏街道を歩き続けた男のみが手にする事の出来る惨めさがたっぷり滲み出ていて、そのあまりのクオリティーの高いダンディズムを見せつけられたジョニー・デップが、恐れをなして『パイレーツ・オブ・カリビアン』のようなデフォルメされた役柄の世界へと逃げ込んでいった事は言うまでもない。。。
あらすじ
78年、ブルックリン。
FBI捜査官ジョー・ピストーネ(ジョニー・デップ)は囮捜査官として、マフィア組織に潜入することを命じられた。
彼の潜入名はドニー・ブラスコ。
マフィアとの接触を狙っていた彼が最初に近づいたのは、末端の気さくな男レフティ・ルギエーロ(アル・パチーノ)だった。
当時、マフィアファミリーは、リトル・イタリーを拠点とするソニー・レッドの組と、ブルックリンを拠点とするソニー・ブラック(マイケル・マドセン)の組と、2つの組が対立して存在していた。
後者に属していたレフティは、忠実に仕事はこなすものの運にはまるで見放され、ボスへの上納金に四苦八苦し、出世とは縁がない男だった。
そんなシケた暮らしの中に現れたのがドニーで、レフティは聡明で行動力に溢れた彼との出会いに、諦めていた昇進の夢を再び抱くようになる。
また、誠実な彼にドラッグに溺れる息子の姿を重ね合わせ、単なる弟分を超えた愛情を感じ始めていた。
>映画.comより抜粋
男の負の美学
史実を元に作られたこの映画の悲劇は、エリート潜入捜査官と儚い夢を見続ける三下マフィアとの間に生まれる絆が軸になる。
しかしその二人の繋がりは友情なんて安いものじゃなく、うらぶれた世界の中でこそ培われていく本物の信頼関係。
劇中のレフティは、マフィア同士の利権争いに巻き込まれていく中でも、トニーの前では躊躇いもなく平気で愚痴を吐き出す。
それはいつ誰かに密告されるかもしれない恐怖の中でも、圧倒的にトニーを信じ抜いてしまっているからだ。
ここを滑稽ととるか、愛情深さととるかでこの物語のカタルシスは随分変わっていってしまうが、それがレフティの言うような、オールドファッションタイプの男の生き様。
この厭世観は、現実の世界でシラケた人間関係にもどかしさを感じているヒトの心には、きっと強く共鳴するだろう。
劇中のレフティは他のマフィアものを描いた作品同様、家庭をこよなく尊重する。
彼らは口が裂けても妻の悪口を言わないし、子供が入院すれば仕事も放りだして一目散に駆けつける。
そんな男の心情に、家庭を顧みれないおとり捜査中のトニーがシンパシーを抱き始めていく描写は溜まらなく切なくなるが、それでいて彼はいつかレフティを裏切って必ず元の世界へと戻っていかなければならない。
この葛藤と築き上げられていく強い二人の信頼関係との綱引きが、この作品のテーマでもある皮肉なのだが、やはり、名優アルパチーノの演技はあまりに絶妙。
彼のちょっとおどけて見せる流し目、大仰な仕草、半開きの口元で呆れてみせる様子なんかは、まさしくジョニー・デップが後に演じる事になるジャック・スパロウの小者感満載の演技なんかにも、しっかりと受け継がれていっている様な気も。。
そして、更に彼らの脇を固める俳優陣も必見。
二人のボス役には『レザボア・ドッグス』のMr.ブロンドことマイケル・マドセンが屈強な親分役を演じ、『ゴッド・ファーザーPARTII』で若き日のクレメンザを演じていたブルーノ・カービーまでもが出演してる事で、王道マフィア映画の既視感もかなり色濃く漂い続ける。
つまり、この映画は『ゴッド・ファーザー』のマイケルが陥ったパラドックスであると共に、頭のいい女性達にはなかなか理解されにくいだろう、うだつの上がらない中年男の幻影をそのまま見せてくれる一種のエスプリ的な男の負の美学と言えるのだろう。
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