Elle/2016(フランス、ベルギー、ドイツ)/131分
監督:ポール・バーホーベン
主演:イザベル・ユペール/クリスチャン・ベルケル、アンヌ・コンシニ
バーホーベンが描く官能的な女
ポール・バーホーベンの最高傑作である事は間違いない作品です。
『氷の微笑』 や『ショーガール』のようなもの凄く劣悪なエロティック映画を撮ってしまうわりには、『ロボコップ』や『トータル・リコール』等、近年のSFロボット映画史に残る金字塔も手掛けてきた彼の二面性。
どちらにしろあまり深い意味合いの作品は少なく、上っ面を最大限美化する映画の象徴的な監督だと思っていました。
その偏った見方を180度変えてしまったのがこの作品。
バーホーベンの奥底に秘めた歪な女性賛美と性的嗜好が垣間見えた気がします。
この作品は主演のキャスティング段階で、ニコール・キッドマン、ダイアン・レイン、シャロン・ストーン、ジュリアン・ムーア、シャーリーズ・セロン等、錚々たる名女優にオファーを出したもの全て断られ、フランスの至宝と呼ばれる往年の名女優イザベル・ユペールによってようやく映画化が実現したちょっと曰く付きの映画です。
その最も大きな原因は、主人公のレイプ被害を受けた女性を劇中で肯定的に扱っている点です。
正直自分も、一度見終わった後にはレイプそのものを社会の必要悪の様に描き切った監督の趣旨がよく分からず、何とも言えない後味の悪さを覚えました。
しかし、、
この映画を自分は女子と一緒に見たことで色々気づかされました。
それは、、
リアリストな彼女の目線から観れば、イザベル・ユペール演じるミシェルは限りなく逞しく美しいオンナに見えたようです。。
この着眼点に意識して、ミシェルの受けたレイプを被害と考えず、彼女の人生の一通過点として捉える事によって、物語の全貌が明らかになるちょっとドラスティックなサスペンスです。
―――ゲームソフト会社の社長のミシェルは、陰で親友でビジネスパートナーでもあるアンナの夫とも情事を続ける破天荒なキャリアウーマン。
若い男を漁り続ける母親のイレーヌや、妊娠中の恋人を持つ息子のヴァンサンとは折り合いが悪く常に険悪なムードが漂う。
そんなある日、突然ミシェルは自宅で覆面を被ったレイプ魔に襲われてしまう。
友人達に彼女はその事実を打ち明けるが、警察には通報しようとしないミシェル。
それは彼女が幼少期に感じた、通り魔殺人犯だった父親の事件によって芽生えた社会への不信感からだった・・
イザベル・ユペールの名演
一見ファムファタール映画ぽく見られがちなこの作品ですが、その基になるのは一人の倒錯した女の人生譚。
一度ではちょっと理解しずらいのでミシェル演じるイザベル・ユペールの描写を注意深く見返してみると、そこには確かに、空っぽの様で貪欲に人の感情をまさぐっているミシェルの細かい芝居が見受けられます。
ヨーロッパ映画に疎い自分は、この作品で初めてイザベル・ユペールというこのフランス人女優を認識しましたが、私的にはミシェルの役は彼女意外には考えられません。
フルヌードシーンや苛烈な性描写が多いこの映画はニコール・キッドマンやシャーリーズ・セロンの様な王道派美人女優が演じていたら、ちょっと違った意味合いを持つ作品になってしまっていた事でしょう。
第89回アカデミー賞で主演女優賞に初ノミネートされ、本作品でカンヌでも高い評価を得た彼女は、官能的な魅力を持つこの役を演じた時、既に61歳。
還暦越えとはとても思えない彼女の美しさのおかげで、深い重みのある空虚に満ちたミシェルの半生が見事に反映されてます。
複数のパーソナリティ障害を持つ女
イザベル・ユペールが演じることにより、一層重厚感を増したこの映画の主人公は一見奔放に見えながらも、その奥底に複数のパーソナリティー障害が見え隠れしています。
その一例を、ネタバレしない程度に上げてみると、
怪我したスズメを飼い猫が食べてしまおうとする際に、ミシェルはその猫を追い払い必死に介抱しようとしますが、自分に出来る事の限界を察知した後には、そのスズメをあっさりとゴミ箱に捨ててしまいます。
この恬淡寡欲な彼女の生き様は、劇中彼女に降りかかる事件、その人間関係等にも数多く見られ、潔いが全てが自己完結している冷静さに自分は少し恐怖を覚えてしまいました。
しかしこの魔性の魅力によって、男達だけではなく周りの女達もミシェルに最終的には引き付けられていく事も事実。。
彼女が持つこの妖艶な嗜好が父親から受け継いだモノなのか父親の事件によるモノなのか劇中では描かれませんが、そこを妄想してみるのもこの映画の妙味の一つです。
私的には、、
この映画は屈折したエディプスコンプレックスを持つ少女の成長記録の様に感じましたが、それが「救われないから美しい」という観点で一緒に観賞した女の感性に感心してしまった作品です。
尚、劇中描かれたレイプ事件をローマ法王の沈黙を揶揄している点において、意外にも社会的なメッセージ性の強い作品でもあります。
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