マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』の私的な感想―渡辺謙から教わった事、神・ゴジラの誕生―(ネタバレあり)

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Godzilla: King of the Monsters/2019(アメリカ)/132分
監督/脚本:マイケル・ドハティ
出演:カイル・チャンドラー、ヴェラ・ファーミガ、ミリー・ボビー・ブラウン、チャールズ・ダンス、
チャン・ツィイー、渡辺 謙

 芹沢教授の台詞

ゴジラに政治を持ち込むとちょっとややこしくなる。

無口でコワモテ、それでいて何とも形容しづらいあの咆哮が響き渡るだけで、日本人がこの娯楽映画に秘めてきた哀愁のようなものをどうしても感じてしまう。。

 

前作のハリウッド版の印象など、見返すまでもなくまったく記憶にないので、正直どうでもよかった。

“映画の日”に特に観たい映画も見つからず、貧乏性な自分が惰性で手を出したのが日本人の誇りの象徴『ゴジラ』の最新作だったのだけど、そんな怠慢さが運の尽き。

吹き替え版のチケットを間違って購入してしまい、すぐさま劇場の係員に変更を申し出ても、杓子定規な彼らはやっぱり取りついてくれない。。

微妙な恥ずかしさを覚えつつも、客席を埋め尽くす無数の親子連れに混じって鑑賞していると、案の定、子供たちの囁き声がどこからともなく聴こえてくる。。。

トイレに行き忘れたのか、開始10分もしないうちに席を立つ子供たちも現れる中、筋の読めない中途半端な展開にちょっと辟易してしまっていたのだが、本人が吹き替え版も担当したのであろう渡辺謙の声で、ちょっとスクリーンに引きずり込まれた。

自分を苦しめる悪魔を赦さないと、恨みは晴らせない

本編では、彼はこれをなんて英語で言っていたのだろう?

そんな事を考えながら見進めていくうちに、監督の描きたかった“王の覚醒”に準えた人類へのアンチテーゼ的なゴジラの魅力に、固唾を呑んで見守る子供たちと一緒になって、何時しかすっかりのめり込んでいった。

 

 

 

 

あらすじ
『GODZILLA ゴジラ』から5年後の世界を舞台に、復活した神話時代のモスラ、ラドン、キングギドラらの怪獣たちとゴジラの戦い、それによって引き起こされる世界の破滅を阻止しようとする特務機関・モナークの活躍を描く。
Filmarksより引用

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 恐怖と混沌の象徴のゴジラ

SF映画のセオリー的な専門用語を並べ立てられても、こっちはつまらない。

そんな当たり前の事を、素直で自由な発想の子供たちが、改めてしっかり気付かせてくれた。

彼らが直ぐに飽きてしまうのも、おしっこを忘れてしまうくらい映像にのめり込めないのも、そんな緊張感と妄想を膨らませられない映像の方が悪い。

 

今回のゴジラの出だしは、そんな子供達に的を絞ったエンターテインメントに仕上げたつもりなのか、 エヴァ版『シン・ゴジラ』によって踏襲された昔ながらのビターなテイストを大人達に残したかったのかイマイチよくわからず、正直退屈だった。

 

更に冒頭のよくワカラナイ人間達のドラマパートが、どうしても興趣を削いでしまう。

 

前作のギャレス・エドワーズ版『GODZILLA』に息子を殺され、怪獣を憎む父親?

その後離婚して、残された娘とゴジラ研究に没頭し続けている母親?

彼女が所属していたモナークというゴジラ研究機関の名前だけは、渡辺謙扮する芹沢博士のおかげでかろうじて覚えていたが、オルカなんていう怪獣とのコミュニケーションツールを開発している時点でどうも怪しい。

 

どちらかと言えば若干ウルトラマン派の、ちょっと薄いゴジラファンの自分でも周知してしていたコトは、東宝の長い怪獣映画史の中でも代々受け継がれてきたゴジラのバックグラウンドは世界で唯一の被爆国である日本が生み出した核の落とし子であったはずだ。

その、人が生み出した恐怖と混沌の象徴たるゴジラが、まるで未知の生命体みたいな扱われ方をされていると、日本人としてはかなりうすら寂しく感じてしまう。

 

そんな時、前述した渡辺謙の台詞が胸に響いてきた。

 

・・つまり、歴史はこうして変容していくのかと・・・・

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 ハリウッド版『怪獣王ゴジラ』のリメイク(※以下、ネタバレあり)

とは言え、古いゴジラ映画を自分は全く知らない。

なので今回の最新版を期に、54年度版初代『ゴジラ』からちょっと鑑賞してみた。

 

水爆実験によって、長い眠りから覚めた太古の巨大生物“呉爾羅(ゴジラ)”。

なるほど、時勢に準えた反核映画の臭いがぷんぷんする。

当時アメリカによるビキニ環礁の水爆実験とそれに巻き込まれた第五福竜丸の被害等をコンセプトに、日本が核の二次的恐怖を世界に向けて広く発信したパニックムービーだ。

博士の名前やゴジラの息の根を止めるオキシジェン・デストロイヤーなる秘密兵器等、元のシリーズのオマージュを散りばめた感はいささかあるが、どうしても核の脅威という物語の根幹と、ゴジラ自身の恐怖の質感が変わってきている様な気がする。

それが例え、薄れゆく人の記憶のさだめだとしても・・

けれど、ゲースロのタイウィン・ラニスターでお馴染みのチャールズ・ダンス等のエコテロリストが、南極の氷の中に閉ざされていたキングヒドラを復活させてからは、映画の持つ迫力がガラリと変わった。

 

この頂上決戦とも言うべき二大怪獣の死闘をいきなりたっぷり見せられてからは、自分も含めた殆どの観客はゴジラを必然的に応援せざるを得なくなったのだ。

つまり反核の象徴であったはずのゴジラが、外来種に準えたヒドラから地球を救うという構図。

これはやっぱり政治的な圧力の中で、日本映画として初のアメリカメジャー系での公開にこぎつけながらも、改悪された56年度版『怪獣王ゴジラ』のリメイクなのだろうか?

そんなしこりを抱えながらも、脚本家から抜擢されたマイケル・ドハティ版の『ゴジラ』は、前回のギャレス・エドワーズ版より随分ダイナミックでストレートに巨大怪獣の迫力を伝えてくる。 。

 

 

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 神話となるゴジラ

思い返せば前作のエドワーズ版『GODZILLA』は、まるでよく分からなかった。

モンスターズ/地球外生命体』で斬新な切り口のモンスターパニック映画を見せつけてくれた彼は、ゴジラよりも自分の作風に酔っていただけだったのかもしれない。。

 

エドワーズお得意の暗い画面の中からようやく現れるファーストカットの怪獣は、ムートーなんて言うまるでゴキブリをそのまま巨大化させたような異形のクリーチャーだし、終盤になってようやく全体像を見せてくれた我らのゴジラも、結局、どこで何をしていたのかさっぱり分からない。

おまけに変なジャパニーズ忖度を散りばめ、どーでもいーハリウッド的英雄譚を主軸におかれた前作に、憤慨したコアなゴジラファンもきっと多かっただろう。

 

その点マイケル・ドハティは、上辺でなく日本人の心にしっかり寄り添ってくれた。

 

冒頭1分もしないうちに、人間がゴジラを仰ぎ見るその迫力。

モスラ』に登場した双子の妖精にどこか面影を偲ばせるチャン・ツィイーを、その第一人者の教授に抜擢したのも、中々ニクイ。

そして何よりも怪獣の造形の細部にまでかなりこだわりを見せた同監督は、そのデザインイメージに、より神話的で聖書に近いものを持ち込もうとした様で、三本首のキングヒドラなんかは西洋の邪悪の化身的なドラゴンというよりも、インド神話にルーツを持つナーガ的印象の方が極めて強い。

更にその邪神の前にひれ伏す、プテラノドンをイメージしたラドン

火山口から飛び出すその姿は不死鳥のイメージそのままに、翼の先端をCG処理によって溶岩と融合させている。

この東洋の神話に寄せた怪獣達の復活劇に対抗するのが、古代からの地球の守り神となった我らのゴジラ。

そこにガイア理論に裏付けられた地球の裁定者のイメージをくっつければ、否が応でもゴジラのそのずんぐりむっくりで短足な姿にも愛着が湧いてくる。

 

・・上手く論点をすり替え、ゴジラを神話にしたのか・・・

 

現代風にアレンジされ、いつの間にか子供達の心もしっかり鷲掴みにした監督の手法に舌を巻いていたら、渡辺謙がそんな蟠りを一掃してくれた。

 

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 シン・ゴジラの誕生

古代の神々の頂上決戦を前にすれば、放射能の恐怖レベルは霞んで見える。

それは時勢やハリウッド事情を鑑みれば、ある程度日本人は許容すべきだろう。

けれど反核の精神の元に始まった『ゴジラ』が、いくら時代の遷移とは言え、放射能エネルギーを常に必要とする設定とはいかがなものだろうか?

原爆の恐怖を唯一体感した国民の一人として、そこはどうしても折れてはいけない線な気がする。

ゴジラの咆哮やクリーチャーデザイン、更には故・伊福部昭氏が作曲した日本人にお馴染みの「ゴジラのテーマ」を作中のサントラにきっちりと盛り込むほど、日本側と密に連携をとって製作してきたのだとすれば、あの伝統を重んじる東宝は監督の脚本のどこでそれを妥協したのだろう?

 

その疑問の答えは、渡辺謙扮する芹沢教授の死に方

 

彼はキングヒドラにこっぴどくやられ、一度は衰弱しきって生死の境を彷徨うゴジラに新たなエネルギーを与える為、最新の核兵器と共に殉死する。

 

つまり、ここで長いゴジラ史の中で、核兵器そのものの廃絶を映画を通じ訴えかけてきた、誰あろう日本人がそれを抱え爆死するのだ。

 

一見皮肉にもとれるこの展開に、戸惑う高齢者層も少なからずいるだろう。

けれど、きっとここが東宝が最期まで譲らなかった矜持だろうし、前述した渡辺謙の台詞を借りれば、憎悪の根源を赦す事で見えてくる新しい世界の在り方なのかもしれない。。。

 

・・さしづめ、そんなゴジラに新たな称号を与えるとすれば、神(シン)・ゴジラかw

 

そうして万物の王として返り咲き、天高く叫び声をあげるゴジラは、やっぱり、有無を言わせない程の圧倒的なビジュアルで、すこぶるカッコいい。

 

更にそのゴジラの前にひれ伏す怪獣達の中に、クビにされたエドワーズの作品へのオマージュのようなクリーチャーまでもちゃっかり忍ばせ、エンドロールには滞りなくモンスターバースへと繋がるクリフハンガーまで仕掛けてくるマイケル・ドハティ監督の秋波。。

 

新時代を迎え、昭和から半世紀以上語り継がれたゴジラの歴史に一旦は終止符が打たれるも、ドハディならその絶妙なバランス感覚の中で、万人が納得できるスリリングなキングコングとの最終決戦を、きっと見せてくれるのかも・・

 

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