マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『イット・カムズ・アット・ナイト』の私的な感想―赤い扉を開ける者―(ネタバレあり)

It Comes at Night01

It Comes at Night/2017(アメリカ)/91分
監督/脚本:トレイ・エドワード・シュルツ
出演:ジョエル・エドガートン、クリストファー・アボット、カルメン・イジョゴ

 ホラーの定義

ホラー映画の定義には色々ある。

物質的や感覚的な恐さを感じられるもの、或いは見る側が心理的な恐怖を感じられるものなど。。

 

自分のブログでは、規格外なグロ描写でもない限り、あえて悪魔やゾンビ、或いは幽霊等の超常現象が起こる作品のみをホラー映画としてジャンル分けさせてもらっていたけど、この手の作品を見てしまうとちょっと考えさせられてしまう。

 

言い訳だが、更にこの映画を知ったタイミングもかなり悪かった。

IT/イット それが見えたら終わり』や『イット・フォローズ』等のティーン向けのビビらせ系ホラーを見まくって気持ちがすっかり萎えてしまっていた頃、『イット・カムズ・アット・ナイト』なんて、まるでこの手のシリーズの劣化版のようなタイトルを聴いて無意識のうちにスルーしてしまっていた。

そんな自分の思い込みの激しさや、一辺倒なものの見方に反省の意も込めて、ここはあえてはっきり断言させてもらう。

 

この映画には、モンスターやゾンビ、或いは幽霊や病原菌感染者等さえも全く出てこないが、紛れもない極上ホラーであると共に、緻密に練り込まれた脚本に、久しぶりに唸ってしまった。

 

 

 

 

 

あらすじ
夜やってくる“それ”の感染から逃れるため、森の奥でひっそりと暮らすポール一家。
そこにウィルと名乗る男とその家族が助けを求めてやって来る。
ポールは“それ”の侵入を防ぐため「夜入口の赤いドアは常にロックする」というこの家のルールに従うことを条件に彼らを受け入れる。
うまく回り始めたかに思えた共同生活だったが、ある夜、赤いドアが開いていたことが発覚。
誰かが感染したことを疑うも、今度はポール一家の犬が何者かによる外傷を負って発見され、さらにはある人物の不可解な発言…外から迫る、姿が見えない外部の恐怖に耐え続け、家の中には相互不信と狂気が渦巻く。
彼らを追い詰める“それ”とは一体・・・。
Filmarksより引用

It Comes at Night02

 見えない“それ”の正体

インディペンデント系映画製作会社『A24』の悲しい性とでも言うべきか・・

世に出回る類似タイトルの質の薄いホラーのおかげで、この種の練り込まれたホラー作品が埋没してしまうのはちょっと惜しい。

 

しつこいようだが、この映画の恐怖は前述した“イット”シリーズとはまるで違う。

更に終末期を感じさせる冒頭から、『クワイエット・プレイス』や『バード・ボックス』等の様な戦慄の近未来世界を想像してしまうのも無理はないが、その手の感覚はひとまずこの映画を見る前に封印しておく事が賢明なのかもしれない。

 

・・山小屋に籠る三人の家族。

やってくる見えない恐怖の影に怯え、肩を寄せ合いながら暮らす日々。。

 

タイトルからしてその“何か”が何時しかやってくるのは明白なのだが、それは何も物質的なものとは限らない。

 

人はサバイバル状態に陥った時、どのように他者と関わりあうのか、他者に対して何をしうるのか

と、監督がTHE RIVERのインタビューにも答えているように、劇中では終末世界の中で人が抱く疑念、或いは他者との共存生活という人間の根幹的なテーマが一つの軸にもなっている。


そんな中、劇中の極めて少ない状況説明と緊迫感を煽る描写のおかげで、自分がまず初めに察したその“何か”は、心理的なものを予感していた。

 

絶望的な世界に取り残された住人たちの不安や錯覚

或いは『遊星からの物体X』等に代表されるような、疑心暗鬼に陥っていく人の心。

 

大局からみれば、そのどちらも間違ってはいない。

人里離れた山奥で孤独な生活を強いられ続ける彼らは、同じような境遇に立たされた新たな生存者が現れたとしても、徐々にその心が蝕まれていく。。

 

しかし、どうもその様子がしっくりこない。

その“何か”に象徴された不信感は、夜に限らず、昼夜止めどなく彼らを襲ってくるのだ。

・・まるで、異文化コミュニケーションの中で、自分達が無意識の内に抱いてしまう不安心の様に・・・ 

それならば、、

未知の病原菌に侵された者との接触を頑なに閉ざす為、夜毎しっかり閉ざされているはずの赤い扉の鍵を内側から開けてしまうのは誰なのか?

 

 

It Comes at Night03

 赤い扉を開ける者(※以下、ネタバレあり)

この物語の中心人物は、一見、主人公の夫・ポールにあるように見える。

新たな共存生活を送る仲間・ウィル達に手を差し伸べるのもポール。

そこに一抹の不安を感じながらも、必死に自分の家族を守ろうとするのもポール。

暗い食卓を彼らが囲む描写なんかには、そんなポールが中心の席に居座り、頑なに自分の決定権を誇示しようとしている様子なんかも伺えてくる。

そしてそんな彼が取り決めた絶対ルールは、夜中に外へ繋がる唯一の赤い扉を必ず閉める事。。

 

しかし、、

その扉は、何者かによって開け放たれてしまう。

これを夢遊病に陥ったウィルの息子・アンドリューの仕業だと思いこみたいポールの心理にこそ、本当の恐怖が潜められているだが・・

 

想像してみて欲しい。

大人となった自分達はつい物質的な恐怖に捕らわれがちだが、見えない病気の影に怯える子供の心理を止める事の出来ない親の心境とは、どれ程のものだろうか・・?

そしてそんな息子が唯一真っ直ぐな愛情を注いでいた愛犬スタンリーを失った時の苦しみを、癒せない親の歯がゆさも・・・

 

自分達はこの巧みな刷り込み描写のおかげで、すっかり物語の中心人物をポールとして錯覚してしまうのだが、実はその視点人物は彼の息子・トラヴィス

 

若干28歳の若さでこの映画を手掛けた新進気鋭の監督トレイ・エドワード・シュルツ氏は、その脚本執筆当時に実父を亡くしていた事で、自分が実体験で感じた恐怖を子供が感じる不安と好奇心に落とし込んでいるようだ。

 

つまり夜にやってくる“それ”の正体は、ポールの息子・トラヴィスが見る悪夢である。

 

とは言え、『エルム街の悪夢』のフレディーのような具現化された悪魔が出てくるわけではない。

このトラヴィスの不安から垣間見る、朧げな世界こそが“それ”の実態なわけだ。

 

彼が眠りについた後、フェードアウトされた画面から出てくる感染した彼の祖父やウィルの映像、更にそのウィルの妻・キムが口移しで何かを彼の中に入れようとしてくるちょっとエロティックな映像も、トラヴィスの微睡みる夢。

そんな彼がキムに不安と興味の入り混じった複雑な感覚を覚えていくのも、思春期の少年ならではの特徴といえるだろう。

 

やがてそれまで父親によって抑制されていた彼の意識の中に、愛犬の死によって芽生えた自我がようやく発露し、彼自身も気づかない無意識の内にドアを開け外の世界へと出ていってしまうその恐怖。。。

 

そんな彼の成長に薄っすらと気づきながらも、それを止められない父の苦悩と、冒頭に罹患した実の父を慰める事しかできないトラヴィスの母サラの憤りが、病に侵された息子の顔の上でシンクロしてしまうと、その夜やってくる本当の絶望感に、子を持つ親はきっと打ちひしがれてしまうだろう。

 

・・うーん、それでもこの言い知れぬ儚さ、子供のいない自分じゃ、何だか上手く伝えられそうもない。。

 

「イット・カムズ・アット・ナイト」
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