HOSTILE/2018(フランス)/83分
監督・脚本:マチュー・テュリ
主演:ブリタニー・アシュワース/グレゴリー・フィトゥーシ、ハビエル・ボテット
永遠の愛のカタチを模索するロマンス
久しぶりにたっぷり考えさせられる映画を見た気がする。
ポスターにある主演のブリタニー・アッシュワースが抱きしめる異形の生物の正体は、勘のいい方なら案外直ぐに分かってしまうのだが、そんなコトがあまり気にならない程劇中の彼女の生き様が無性に愛おしく感じる。
とは言え、そんな彼女が演じるジュリエットの殆ど独り芝居で終わってしまう80分間なので、映画『クワイエット・プレイス』のようなアポカリプスな世界での新型クリーチャーとの戦いを期待して見ると、きっと肩透かしを食らってしまう事だろう。
荒廃した世界の様子もそんなに多くは語られず、ただ果てしなく広がる絶望感。。
奇抜な作品ばかりを取り上げるイメージフォーラムで上映された映画としても、そんなに目新しいものは感じられない。
注目出来るとすればは唯一、映画『MAMA』で一躍有名になった2m4cmの長身痩躯の逸材俳優・ハビエル・ボテットの異彩を放つ名演くらいだろう。
つまりこの映画は、そうした目線で見てはいけない。
SFでもホラーでもスリラーでもなく、永遠の愛のカタチを模索するラブロマンス。
そんな風にこの映画を観る事ができれば、結構、味わい深いものが沸々と込み上げてくるはずだ。
爆発的な伝染病が地球を襲い、わずか2〜3千人の人類だけが生き残った。
過酷な状況の中、食料とシェルターを必死に探し続ける生存者たち。
だが生き残りを懸けてさまよううちに彼らは気づく。
夜になると未知のクリーチャーが現れ狩りを始めることに…。
人間は息を潜め隠れるしかなかった。
ジュリエットは世界の終末を生き延びた若き女性。
過去の人生から、諦めずに闘うことを学んできた。
『HOSTILE』HPより抜粋
タイトルに込められた皮肉
HOSTILE(ホスティル)と聴くと、若い頃に英語に疎かった頃の自分を思い出す。
中学の頃は英語になぞ全く興味がなかった自分は、出来損ないでありながら無謀にも何故か高校留学の選択肢を選んでしまい、アメリカの片田舎で一から英語圏の文化に触れた。
当時、右も左も分からない自分にホストファミリーは英会話に慣れさせる為、近くのホスピスのボランティアを体験させる。
言葉は分からないが、基本的に余命宣告を受けた老人ばかりだった為、彼らの言語はゆっくりとした口調で分かりやすく、その上喜怒哀楽にも富んでいたのでそれなりにやってこれた。
そんな自分は音感だけで彼らの言語を解読していたので、何時の間にかhospice(終末期医療を行う施設)をhostile(敵意のある、敵性を示す等の意)と間違って覚えてしまっていたのだが、ある日一人の老人にそれを指摘された。
語感が似ているのにも関わらず、全くの正反対の意味を成すこの言葉にふと疑問を感じ問いかけてみたが、
「I just don't know. But You've got a point there.」
(ちょっとよくわからないなぁ。でも君はいいトコロをつくね。)
と苦笑いを浮かべながら答えてくれた彼の横顔を、今でも何となく覚えている。
前置きがちょっと長くなってしまったが、つまりネイティブなアメリカンでもココに僅かな違和感を感じる事はそれなりにあるようだ。
弱冠31歳にして、クリント・イーストウッドからリュック・ベッソン、クエンティン・タランティーノやウディ・アレンに至るまで様々な名監督の元で助監督のキャリアを積み重ねてきたマチュー・チュリが、この作品のタイトルにそんなちょっと皮肉めいたものを込めてきた気がしてしまったのは自分だけだろうか?
厭世観漂う究極のラブストーリー
映画『シェイプ・オブ・ウォーター』の二番煎じかのごとく揶揄されてもいるようだが、その厭世観の描き方はデルトロ監督作品の様にボカされてはいない。
まさしくシネスコサイズを存分に活用した全景画像に映し出される光景には、ローン・サバイバーと化したジュリエットの侘しさが痛い程漂い、現実にクロスカッティングしてくる彼女の過去の記憶映像にも、荒涼としたその心象風景がくっきりと浮かび上がってくる。
しかしそんな懐古主義的な悲観論でこの物語を締めくくってしまうのは、あまりに惜しい。
なぜなら彼女の過去の思い出は、すべて現実での試練と直結しているからだ。
予告映像にもあるように、彼女は冒頭から、
「私の名前はジュリエット、そして私は世界終末を生き残ったの。でも、もしあなたが私のことを運がいいと言うなら、それは間違ってるわ。」
なんて映画『バイオハザード』のミラ・ジョヴォヴィッチばりのチープなナレーションが入ってくるもんだから、すっかり悲壮感ばかりを際立たせているカタストロフィの様に感じるが、彼女はどんな絶望的な状況下でも決して生き続ける事を諦めない。
それは、それまでうらぶれた生活を送り続けていた彼女を唯一救ってくれた、夫との約束だったから。。
絵に描いたシンデレラストーリーの様に彼に導かれてきた半生にも関わらず、どうしても自分の存在意義を見いだせずにたじろいでいる彼女の描写には本当に切なくなる。
それでも夫との食事の際に、不確かな自分の価値観に意味合いを持たすかのように、Ditto(ディドゥ)なんて古臭い言葉で彼と同じものを注文する様子なんかが伺えると妙にいじらしい。
映画『GHOST』以来久々に聴いたこの手の表現には、監督のそれまでの映画愛とストイックな映像美を追求する姿勢がたっぷり伺えるが、そんなふたりの永遠の愛のカタチは世紀末な世界の中でどうやって結末を迎えるのか・・?
ありふれた物語の様だが、すっかり誰かを愛し抜いてしまった事があるヒトにはあまりにも感慨深い、究極のラブストーリーが生まれたような気が自分にはどうしてもしてしまう。
『HOSTILE ホスティル』は
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