マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『呪われし家に咲く一輪の花』の私的な感想―朽ちていく女の記憶―

f:id:maribu1125:20180922084145j:plain

I AM THE PRETTY THING THAT LIVES IN THE HOUSE/2016(カナダ、アメリカ)/83分
監督・脚本:オズグッド・パーキンス
出演:ルース・ウィルソン、ポーラ・プレンティス、ボブ・バラバン、ルーシー・ボイントン

 幽霊の記憶

「この映画は誰の為に作られた映画なんだろう?」

なんて疑問がアタマの中でぐるぐると駆け巡ってしまう。

冒頭のテロップで、

「ある家をくれたA・Pへ捧ぐ」

なんて詠ってしまっているので、この作品は監督のオズグッド・パーキンスの実父で『サイコ』シリーズで有名なアンソニー・パーキンスへのオマージュなのか?

 

劇中は終始、幽霊が飛び出してきそうな不気味な空気が漂い続け、突如として鳴り響く不協和音がそのテイストを後押ししている。

 

しかし随所に散りばめられたぼやけた映像で登場する女の画は、いったい何を表しているのだろうか?

 

そんな説明には一言も触れずに、まるで霊界を見てきた者の様な語り口調のナレーションからは、恐怖というよりもどこか哀愁が漂い続ける。

「私の名はリリー・セイラ。3日前に28歳になった。だが29歳にはなれないだろう」

という冒頭の台詞は、幽霊となった女の視点で描かれていく映画『レイク・マンゴー』に登場したアリス・パーマーのそれにも似ているが、彼女より明らかに冷静なトーンで語られるその作風は、霊体の追想映画という新たなホラージャンルを切り開こうとしているのかもしれない。

 

 

 

―――孤独を愛するリリーがベストセラー作家だったアイリスの家にやって来たのは8月の初め頃。
自分が朽ち果てる場所としてその家を選んでいた彼女を看取るのが、リリーに唯一託された仕事だった。
アイリス以外全く人と関わる事のないその生活は、正にリリーの追い求めていた理想の世界だったのだが、どうしても克服できない欠点は彼女が人一倍怖がりなコト。
更にアイリスは健忘症からか、何故かリリーを自分の著書「壁の中の淑女」の主人公“ポリー”と呼び続けるが・・

f:id:maribu1125:20180922084201j:plain

 朽ち果てる意識

ちょっと長ったらしい原題を『呪われし家に咲く一輪の花』なんてハイセンスな邦題に纏めてきた配給の優秀さはかなり賞賛できる。

しかし、どこにでも霊が出てこれそうなストロークの映像の中で、神経質そうな主人公リリーを演じるルース・ウィルソンのみをトラッキングされるのは、始めは少々退屈に感じるだろう。

 

それでも何とか見続けられるのは、リリーが自分たちと同じでとても臆病だからだ。

彼女は人が苦手で、花と語らい、想像する事を拒み続けてきた女性。

 

そんな彼女は家から聴こえる不気味な物音、ポルターガイスト現象等に、いちいち分かりやすく怯え続ける。

現実主義だが闇に恐怖を抱き続ける彼女の感覚にここで同期できると、作品の持つダークな心理にいつの間にか引きずり込まれていってしまう。

 

誰にも気づかれずにひっそりと生きてきたはずのリリーの人生は、アイリスの小説の中の淑女・ポリーの思い出を辿る事により、徐々にその侘しさが膨らんでゆく。

 

しかし、

「ああ、きっとポリーに感情移入してしまったリリーの追想映画なんだろう」

なんて早合点してしまうのはちょっと早い。

何故なら劇中劇に登場してくるポリーのストーリーは、リリーが住んでいるその家を舞台に創られていて、フィクションかノンフィクションかの境い目が定かでない。

 

そこで思い出してもらいたいのは、冒頭のテロップ。

わざわざ監督の父が実際に残した家に纏わる物語としてある様に、実はこの劇中劇は現実とリンクしている。

そんな複雑な入れ子構造なホラーなので少々解読するのが難しいかもしれないが、劇中のリリー同様、想像力を開放して見ていく事でこの作品が持つ独特の味わい深さが胸に広がっていく。

 

あまりにシュールで静謐なホラーなので、誰かとワクワクしながら観るコトは決しておすすめ出来ないが、真夜中に何となく朽ち果てていく自分の意識を追求してみたくなった時には、独りでこっそりヘッドフォンをつけて観賞してみるのも悪くないだろう。

 

『呪われし家に咲く一輪の花』Netflixで観賞できます。

www.netflix.com

sponsored link