Hedwig and the Angry Inch/2001(アメリカ)/92分
原作・監督・脚本: ジョン・キャメロン・ミッチェル
主演:ジョン・キャメロン・ミッチェル/スティーヴン・トラスク、ミリアム・ショア、マイケル・ピット
グラムロックに彩られたLGBTの人生譚
痛々しく、そして優しい作品です。
オフ・ブロードウェイでスマッシュヒットを飛ばしたミュージカルを映画化したこの作品は、自身もゲイである事を公言しているジョン・キャメロン・ミッチェルが監督、脚本更には主演まで一人で務めています。
ストーリーは全編を通じてLGBTの葛藤と原点回帰を謳っていますが、その映像を通じて胸に響いてくるのは喪失したアイデンティティーを探し続ける人の本能。
・・まるで、この作品を自分に紹介してくれた彼女のように・・・w
映画としてはミュージカル映画に多く見られる様ストーリー構成は大分あやふやなんですが、それでもこの作品がどこか居心地よく感じてしまうのは、劇中に流れ続ける懐かしいグラムロックの音色。
キング・クリムゾンやピンク・フロイド等を中心としたイギリスの前衛的なプログレの対となるカタチで広まったこのジャンルは、懐古主義的なショー的要素を多く含む音楽の原点としてイギリスの若者を中心に愛されました。
しかし逆に言えば、それはメジャーではないマイノリティーの象徴としても認知度が高く、デビュー当初のクイーンやデヴィッド・ボウイ等にも見られる様、激しい音色の裏に理解されない苦しみが滲んでいます。
グラムロックの代名詞、フレディ・マーキュリーの半生を描いた作品の感想はコチラ
この映画はそんな勝者でも弱者でもない、はみ出し者の儚い人生譚がたっぷり詰め込まれた作品。
ロック好きな方でないとイマイチ理解しづらいかもしれませんが・・
それでもドラッグクウィーンやマイノリティーの性に少しでも興味がある方ならきっと、その行き場のない浮遊感と叫びだしたくなるような彼らの憤りを十分に味わう事が出来るでしょう。
―――共産主義体制下の東ドイツで母親から「愛の起源」を聴かされながら育ったハンセルは、思春期に出逢ったアメリカ軍の黒人男性・ルーサーと恋に落ちる。
ハンセルはルーサーと共にアメリカに渡る決断をするが、当時の共産圏から脱出するにはそれなりの覚悟と犠牲が必要。
ハンセルは母親とルーサーに促されるままに性転換手術を受けるが、その手術は失敗し、彼の股間には「怒りの1インチ(アングリー・インチ)」が残されてしまう。
自己否定からの回帰
元々ミュージカル映画は全く見ないので紹介されるまで、この手の作品には一切手を出してきませんでしたが、調べてみるとこの作品は日本でも何度も原作のミュージカルが上演されています。
最初の日本語版公演は2004年と2005年に三上博史、その後、2007年から2009年にかけては山本耕史、2012年の8月には森山未來でも上演され、どうもこの俳優のラインナップをみるとこの作品は、技巧派俳優達がその更に高みを狙う上での登竜門の様。
確かに劇中のミッチェル演じるヘドウィグの描写には大分鬼気迫るものがあり、同性愛者の気怠さと虚ろな表情、そしてその儚い叫び声を歌声に変えて観客に届けるには、相当繊細に想像力を研ぎ澄ませる必要がありそう。
ミュージカル版は一度も見たことはないですが、私的に一番気になったのは舞台で上演される際の映像上で流れているアニメーションの処理。
ヘドウィグが幼い頃につけていたこの絵日記のアニメに、ハンセルだった頃の彼の半生の刹那とその美学が全て詰まっています。
その音色は決して歪んだものではなく、むしろ彼が真正面から受け止め続けてきた純愛。。
彼の嚆矢は、凡庸に生きてこれた人間には推し量る事の出来ない情動に満ちています。
そして、、
ラストの彼と彼の率いるバンド「アングリーインチ」のギタリストでヘドウィグの夫(妻)でもあるイツハクとが、妄執していた思いから解き放たれそれぞれに秘める葛藤を発露させていく様は、本当に胸がすく思い。
「僕を否定すれば破壊する」
という一方的に押し付けられた宗教観をアイロニカルに歌う彼らの代表曲「愛の起源」は、自分に足りないものを補おうとする人の悲哀をリリックに乗せた心の奥を突き刺すナンバー。
“否定した自分”を取り戻そうとして悶えている若者や、自分の居場所を求め彷徨っている貴方が一人の夜にこっそり英気を養うにはピッタリの、仄かな勇気をもらえるロックでハートフルな作品でした。
「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」は
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