マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『パーフェクト・センス』の私的な感想―感じなくなる世界―(ネタバレあり)

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Perfect Sense/2011(イギリス)/92分
監督: デヴィッド・マッケンジー
出演:ユアン・マクレガー、エヴァ・グリーン

 哀愁に満ち溢れたアポカリプス

SF映画にしては随分と情緒的な作品です。

『トレイン・スポッティング』の頃の妙味はユアン・マクレガーにはもうあまり感じられませんが、代わりに彼の成長した大人の哀愁が随所に漂います。

 

恋愛要素も多く含まれている為、純粋なSFアポカリプス映画としては、多少辻褄が合いません。

現実主義的なヒトにはちょっとシンドイ映画かも。。

ディテールを追わず、正にタイトルの通り感覚だけを研ぎ澄ませて見る映画です。

 

行き過ぎた資本主義社会に反発する原理主義者達の復讐により、ワクチン?なのかよく分かりませんが、ある日突如として人々が空気感染により徐々に五感が失われていくというストーリー。

エヴァ・グリーン演じるヒロインのスーザンは一応、感染症学者という設定らしいですが、この未知のウィルスへの研究や対策を行っている描写は殆ど描かれず、むしろユアン・マクレガー演じるマイケルとの切ない恋にのめり込んでいきます。

それでもこの作品にどこか惹かれてしまうのは、その独特なイギリス映画ならではの寒々しさ。

カメラサイズやアングルにも随所に監督のこだわりが垣間見え、劇中に観られるイギリスの街並みや風景のシーンには、ダニー・ボイル感が満載。

ダニーボイル感をたっぷり堪能したい方はコチラの映画。


割り切ってSF映画とは考えず、週末の夜にカップルで観る哀愁に満ちたラブストーリーとすれば結構ハマれる気がするんですが・・
 

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 ―――ロンドンにあるレストランのシェフとして働く、マイケル。
モテ男だが、心の奥に病気で亡くした婚約者への罪悪感を引きずっている。
子供が産めない体のスーザンは、その後ろめたさからどこか厭世主義だが、感染症学者として仕事に没頭するフリをする毎日。
アパートの向かいで知り合った二人は、何時しか惹かれ合い、お互いを激しく求めあう。
やがて日常から少しづつ無くなってゆく、ありふれていたはずの感覚・・
人々は一瞬戸惑うが、それでも彼らの日常は続いていく。

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 残された感覚と昂る感情

ここからはネタバレになりますのでご注意下さい。

原題でも同じ、この『パーフェクト・センス』の由来はどこにあるんでしょうか?

ボイルの様なカメラワーク? 失われていく感覚の恐怖?

味覚が失われた後の彼らが、バスタブでシェービングクリームをソフトクリームのようにおいしそうに舐め合う様子も含め、その全てがスタイリッシュな事には本当に感心してしまいます。

そして、その五感が失われる前の一瞬、彼らに沸き起こる強い感情の描写。

悲しみが溢れ、嗅覚が無くなり、
不安が広がり、味覚が消え失せ、
憎しみに支配され、聴覚を奪われる。

そしてその中でも特に印象的なのは、憎しみからくる衝動的な怒りの描写。

お互いの心に欠けたものを補い合うかのように惹かれ合っていくマイケルとスーザンが、感染による疑心暗鬼から罵り合い離れていってしまう描写には、荒廃していく街の様子とも上手く絡み合い、非常に胸が締め付けられます。

そして他のアポカリプス映画の様に、群衆があえてそれを騒ぎ立て過ぎず、次第に受け入れ健気に生き抜こうとする様子は、日本人的な感覚なのかもしれませんが結構リアルに感じられました。

・・次々と失われていく感覚の中で、残された感情を大事に逞しくも寄り添い合う人々のその温もり。

一度は別れたマイケルとスーザンも、何時しか自分にとっての相手の存在の大きさに気付き、必死にお互いを探し求めます。

 

なんて、甘く切ないラブストーリーかと思いきや、、

 

この物語のテーマは、五感を失くしていく人々のその生き様。

 

嗅覚、味覚、聴覚を無くしても、人はなんとか健気に生きていける気はしますが・・

残された2つの感覚はどうでしょう?

物語のラストは、視覚を奪われた二人が指先で互いを求め合う描写で終わります。

・・しかし最後に残されたその触覚までもが奪われたら?

人は本当に不安を感じずに生きていけるんでしょうか?

 

更に・・、

 

この映画においては感覚を失くしていくその過程で必ず、唐突に沸き起こる感情に人は支配されます。

というコトは、視覚を奪われる前に発生していたはずの強い感情とは・・?

なんて考えると、この映画がSF映画の様に見せた恋愛映画の様な、実はスリラー映画だった気もしてしまうんですが・・

この映画は皮肉にもそんな監督のセンスが、一番パーフェクトに感じてしまった良作です。

 

『パーフェクト・センス』
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