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映画『15時17分、パリ行き』の私的な感想―イーストウッドの更なる試み―(ネタバレあり)

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THE 15:17 TO PARIS/2017(アメリカ)/94分
監督:クリント・イーストウッド
出演:スペンサー・ストーン、アンソニー・サドラー、アレク・スカラトス

 実在の人間で実際の事件を再現した究極のリアリズム 

斬新な試みの中にもどこか懐かしさを感じさせる作品でした。

誇張された演出もなく殆どドキュメントの様に、2015年にフランスで実際に起きたタリス銃乱射事件の舞台裏を、あろうことか、事件当日に居合わせた本人達の出演によって描写していく新感覚のストーリー構成。

『チェンジリング』あたりからすっかり実話を元にした映画作りに精を出し始めた同監督は、まるで再現ドラマのようなこの作品で誰に何を伝えたかったのでしょうか?

 

事実は小説よりも奇なりということわざを正に地で行くスタイルのこの作品は、事件当日過激派犯人と同じ車両に乗り合わせる事になる三人の若者たちの経緯を淡々と追い続けていきます。

 

彼らのストーリーも至ってシンプル。

 

幼少期の頃、カトリック系のミッションスクールで居場所のなかった悪ガキ3人組。

大多数の少年がそうであるように、彼らは強い男に憧れ、サバゲ―を通じて友情を育み、将来の夢を抱き模索し、少々挫折しながらも青春を謳歌しています。

 

そんなある日、偶然に巻き込まれた事件で彼らにはいったい何が出来るのか?

 

ブロックバスター的な娯楽映画ばかり見続けているとこの手の作品は大分つまらなく感じてしまうのかもしれませんが、自分はこの映画でどこか映画の原点を観たような気がしてきます。
    

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 追求した究極のリアリティー、映画作りの原点 

全くの素人の若者たちを主演にして描いたこの作品自体、おそらく評論家たちの間では意見が真っ二つに割れる作品でしょう。

それは映画という創りモノの世界において、この映画には全くフィクションが存在しないというトコロ。

殆どの出演者たちはあからさまにどこかぎこちなく、複雑な感情表現や僅かな心の機微を表す描写等も一切ありません。

旅行の道中にセルフィーを持ち歩くアンソニーも、ドイツ人の交換留学生に恋心を抱くアレクも、それはまるで友人の旅行ビデオを覗いているかのような親近感が湧いてきます。

 

しかしこの全くの普通の青年たちが突然衝撃的な事件に遭遇するという現実こそが、この映画の最大のテーマであり監督が追い求めた究極のリアリズム

 

サクラメントのクリスチャンスクールで疎外感を感じていたスペンサーが、軍人に憧れを抱き夢を追おうとするのも、言ってしまえばありきたりですがそれは誰にでも置き換えられるごく自然の日常。

しかし彼の努力は実らず憧れの空挺部隊には入れませんが、SERE指導員(Survival=生存、Evasion=回避、 Resistance=抵抗、Escape=脱走)となった彼は、そこで柔術と救急救命を学びます。

訓練所での授業中に近隣で銃撃事件が起こった時にも、教官の命令に背いてまで一人ボールペンを握りしめ、

「もし銃撃されるような状況が起きた時、オレは机の下に隠れていて殺されたくない」

と封鎖された扉の前に身構える彼を同級生たちは横目で笑いますが、この彼の全くのピュアな正義感がやがて大惨事になりかねない事件を寸前の所で回避する最大のファクターに繋がるという・・

つまりイーストウッドは、この無難な既定路線を歩むきらいの強い若者たちに反し、一見無謀にも思える夢を追い求め続けていたスペンサーに最大限のエールを送りたかったのではないでしょうか?

そして冒頭に出てくる彼らが過ごしたクリスチャンスクールで、その個性を見定めず安易に物事を解決しようとする教師たちの描写等には、保守的な個人主義に傾倒していく社会への痛烈なアンチテーゼも感じられます。

 

何時の時代も、英雄とは自己犠牲の精神から生み出されていくもの。

そしてスペンサーが挫折してきた人生も、すべてが必然であり、その努力は必ずいつか報われる時が訪れます。

 

一つの事件を通じ、どこにでもいる若者が一夜にして英雄にもなりうるという希望と、こっそり社会批判を紛れ込ませたイーストウッドの手法は、古臭いですが、エンターテインメントとして映画を世に送り出す意義を再考させられるエバーグリーンな空気感を保っていた作品でした。

 

「15時17分、パリ行き」
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