マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『深呼吸の必要』の私的な感想―ウチナンチュに受け継がれる魂―

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深呼吸の必要/2004(日本)/123分
監督:篠原 哲雄
出演:香里奈、谷原 章介、長澤 まさみ、成宮 寛貴、金子 さやか、久遠 さやか、大森 南朋

 究極の癒し、沖縄の精神 

・・最近重たい作品ばかり見過ぎていたので、ちょっと気分転換を。。

 

夏が近づくと思い出す映画です。

篠原哲雄監督の沖縄愛がたっぷり詰め込まれているこの作品は、自分にとって究極のヒーリング映画

疲れた時に、ただ、何も考えずに感じるだけの作品です。

 

この映画ほど、説明が不要な作品もありません。

劇中で描かれているのは、みな深呼吸が必要な若者たち。

心に僅かな痛手を負っている者、現実から目を背けたくなった者、居場所が見つけられない者。

そんな彼らが一時の沖縄でのサトウキビ狩りを通じて、自分の立ち位置をもう一度見つめ直していく。

たったそれだけを淡々と捉え続ける作品なんですが、、

 

見終わった後の爽快感はたまりません。

 

沖縄の青春ものを描くとどうしても、心の瑕の舐め合いのような恋愛劇や、戦争を背景にした切ない群像劇になりがちですが、この映画の登場人物たちは本当にただ働き、眠るだけ。

 

しかし、これこそが本当の沖縄の精神

 

劇中に登場する人物たちは殆ど一人称で自らの価値観を語り合いますが、それは深く人と関わり合う事に疲弊した現代人を見事にトレース。

そんな彼らに、おばあが「なんくるないさ」と微笑みかけるコトバが耳の裏にいつまでも残り続けます。  
 

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 安里屋ユンタ 

沖縄独特の優しい方言の響きと共に、画面から伝わる柔らかさを引き立てているのが、挿入歌の琉球民謡「安里屋ユンタ」

www.youtube.com


上述した様にこの映画には野暮な解説は不要なので、今回はちょっとこの唄の紹介を。

 

安里屋ユンタはその耳障りの良い三線の音色と八重山情緒溢れる独特な囃しで、沖縄に旅行に行かれた方は誰しもが一度は耳にした事のある民謡ですが、この唄の発祥の地は石垣島の離島、竹富島

もともと田植え時の労働歌として広まったこの唄には、実は23番までの歌詞がありますが、優しい歌声とは裏腹に少々奥深い意味合いが込められています。

江戸時代中期、一応対外的には独立していた琉球王国は、実質的には薩摩藩の支配下にあり、那覇を拠点とする王朝と薩摩への二重課税に農民は苦しんでいました。

そんな折、首里から派遣された役人が竹富島に実在した絶世の美女・安里屋クヤマに現地妻になるよう迫ります。

当時、娘が役人の妾になると、年貢を免除されたり財産を分け与えられたりしたので、重い人頭税に苦しめられていた村民は挙って娘を差し出す習慣があった中で、クヤマは彼からのプロポーズを一蹴。

更に上の位の与人(ゆんちゅ/村長)の妾になる為、一役人からの求婚を袖にします。

そんな彼女は島一番の働き者でもあり、与人が島を去った後には再婚する事もなく島の貧しい家の子どもたちの面倒を一手に引き受けた聖女

 

つまりこの唄は沖縄人のプライドでもあり、健気な生き方そのものを謳った真の琉球魂です。

 

汗だくの労働を通じ、いつの間にかその魂に突き動かされていく若者たちがそれぞれに欠けていた「何か」を逞しく見つけだしていく描写には正に胸がすく思い。

挫折を味わった方や現実逃避癖が抜けない方、或いは単調な日々の毎日に少し疲れを感じてきた方には、一時の清涼感と共に生きている実感を存分に味わえる秀逸な作品です。

 

「深呼吸の必要」
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