マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『運び屋』の私的な感想―老いを受け入れたイーストウッドが最期に辿り着いたもの―

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The Mule/2018(アメリカ)/116分
監督:クリント・イーストウッド
主演:クリント・イーストウッド/ブラッドリー・クーパー、ローレンス・フィッシュバーン、マイケル・ペーニャ、ダイアン・ウィースト、アンディ・ガルシア

 クリント・イーストウッドの告解

破天荒に生きてきた人間ほど、その人生の最期を上手く締めくくろうとする。

それが贖罪の意識からくる懺悔なのは明白だが、とうとう往年の名優にして偉大な監督としての功績も上げてきたクリント・イーストウッドも、齢87歳にして遂にその境地を迎えたようだ。

 

グラン・トリノ』以来、実に10年ぶりに監督と主演の両方を熟した彼の本作は、一言で言ってしまえば、それまでの自分自身を振り返った上で告解以外の何ものでもない。

 

ニューヨーク・タイムズ誌に掲載された実在した園芸家レオ・シャープが晩年期に手を染めてしまった麻薬の密輸劇に、数々の成功を収めてきたイーストウッド監督は何を見たのだろうか?

 

 

 

あらすじ
アール・ストーン(クリント・イーストウッド)は金もなく、孤独な90歳の男。
商売に失敗し、自宅も差し押さえられかけたとき、車の運転さえすればいいという仕事を持ちかけられる。
それなら簡単と引き受けたが、それが実はメキシコの麻薬カルテルの「運び屋」だということを彼は知らなかった…。

Filmarksより抜粋

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 家庭に居場所のない男が辿り着く者

・・ホンネを言うと、老害に近いジジイの戯言なんて聴いてらんない。

 

自分達アラフォー世代は、カッコ良かった彼らの背中を見据え、歯を食いしばってきたわけで、誤解を恐れず言うとするならば、彼らにはカッコイイまま死んでもらいたい。

 

・・そうでもしてもらわないと、自分達は何の為に数々の幸せを犠牲にしてまでも、その背後を歩いてきたのか・・・

 

しかし突然舞い込んできた内田裕也さん死去のニュースを聴いて、そんな考えが少しづつ揺らぎ始める。。

希林さんの死から半年ほどであっさり逝ってしまった彼の心情を推し量るだけで、胸が押しつぶされそうになる。。

半世紀以上彼が叫び続けたRock'n'Rollは、やっぱり、その彼の生き様を心底尊重し続けた女性が裏にいたからこそ、吐き出せていた言葉なのだなぁ・・と・・・・

 

ちょっと脱線しかけたが、この作品の主人公アールも、正にそんな内田裕也さんそっくりの無垢で破天荒な男で、その家庭に居場所を見つけられない自分の存在感のを外の世界で得ようともがいている。

 

イーストウッドはそんな彼の最後の過ちに、自らがそれまで犠牲にしてきた何かをリンクさせたのだろう。。

 

クラシカルな車で鼻歌交じりに悪行に手を染めていくアールの様子なんかは、彼がそれまで顧みてこなかった自らの半生そのもの。

大金を手にする事で、家族や友人なんかをも取り戻そうとするアールには、そのあまりに自虐的なイーストウッドの開き直りっぷりに、失笑を通り越えて爽快感すら感じてしまう。

しかしそんな彼の夢物語は長くは続かず、イーストウッド的な静かなトーンで徐々にフェードダウン。

マトリによって捕まる彼の最後の車中でのシーンは、そんなアールの横顔と捜査官の顔に明暗をくっきりと浮かび上がらせ、自身の慙愧の念のを表している。

 

つまり、『グラン・トリノ』がイーストウッドが思い描いてきた理想の死生観とするならば、この作品はまさにそんな彼が夢想し続けてきた現実が、きちんと腹を括って向かい合った作品といえる。

 

そんな彼の映画人生のフィナーレに、代表作で主演を演じてくれた『アメリカン・スナイパー』のブラッドリー・クーパー、更には『クラッシュ』のマイケル・ペーニャが華を添え、『ゴッド・ファーザー・パートⅢ』の頃よりはだいぶ衰えてしまったアンディ・ガルシアとも親交を深めた上で、往年の名女優ダイアン・ウィーストにその告解を伝えられたあげく、実の娘のアリソン・イーストウッドまでもが、役の中でそれを見守っていてくれているのだから、もうそれだけでだいぶお腹いっぱい。。

アールが愛で続ける媚態という花言葉を持つデイリリーの様に、彼の最期に寄り添い続けてくれる女性はきっともう見つけられないかもしれないが、老いをしっかり受け入れ家庭人としての無力さをきちんと受け入れた彼の贖罪は、万人の男が最期に辿り着いてしまう、逞しく健気な女性のぬくもりに身を委ねようとする、一種の甘えの様に感じてしまった。

 

「運び屋」
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