マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『スリービルボード』の私的な感想―アメリカの縮図と免罪符―(ネタバレあり)

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Three Billboards Outside Ebbing, Missouri/2017(アメリカ)/115分
監督:マーティン・マクドナー
主演:フランシス・マクドーマンド/ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェル、アビー・コーニッシュ、ジョン・ホークス、ピーター・ディンクレイジ

 玄人好みのヒューマンドラマ

絵に描いたような典型的なアメリカ映画です。

どうしても劇場で見る気になれなくてVODにUPされるのを待っていたんですが、周りの仲間との会話にいよいよ着いて行けなくなりそうだったので思わずレンタルで。

 

第90回アカデミー賞で6部門で7つにノミネートされ、主演のフランシス・マクドーマンドと助演のサム・ロックウェルがそれぞれ最優秀賞を受賞したこの作品ですが、アメリカ好きの日本人の目にはどう映っているのでしょうか?

 

物語の主軸は“母の愛”“罪の赦し”

 

ストーリー構成は秀逸で、バイオレンスと人間愛を上手く絡ませ多面性を持つアメリカ人を非常に奥深い所まで描いています。

 

俳優陣の熱演も中々のもので、主演のフランシス・マクドーマンドは2011年に『Good People』でトニー賞、2015年の『オリーヴ・キタリッジ』ではエミー賞、1996年の『ファーゴ』とこの作品でそれぞれ最優秀主演女優賞を獲得し、演劇界、ドラマ界、映画界で三冠を制した強者。

脇も『メッセンジャー』でアカデミー賞の助演男優賞にノミネートされたウディ・ハレルソンや『ウィンターズ・ボーン』で同じ助演男優賞にノミネートされたジョン・ホークスと玄人好みの超豪華布陣。

更に『ゲーム・オブ・スローンズ』のティリオン役で有名なピーター・ディンクレイジまで細かい脇役で出演しているのにはちょっと驚きました。

 

・・それでも、、

 

自分はこの映画を見終わった後に何処か歪な感覚に陥ってしまいました。

それはこの映画のタイトルを聴いた時からの違和感。。

 

どうも宗教的な作品に過敏になり過ぎているようで、この手の作品は穿った見方をしてしまいます。

今回はそんな偏った見方での感想と解説を。。

 

以下、『スリービルボード』のネタバレを含んだ上での感想です。

まだご覧になっていない方はご注意下さい。

 

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―――ミズーリ州の架空の田舎町、エビング。
7ヶ月前に娘のアンジェラをレイプ後殺害されたフランシス・マクドーマンド演じるミルドレッドは、街の寂れた国道にある3つのビルボードに目をつける。
未だ犯人が捕まらない事に憤りを募らせていた彼女は決心し、離婚した夫の車を売却。
その金で街の警察署長に異議を申し立てる広告を掲載。
サム・ロックウェル演じるレイシストの警官・ジェイソンはこれに憤慨。
更にミルドレッドは警察だけでなく彼らを支持する住民達の反感をも買い、次第に追い詰められていくが・・

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 3つの象徴と劇中歌に込められた宗教観

敢えて今回はアメリカ版のポスターを表1に使ってみましたが、どうでしょうか?

俳優陣と看板の、ある意味バランスの取れたこの3つの構図で、どうしても連想してしまうのは宗教観

これはキリスト教における三位一体を表し、もはやこの表紙の時点でこの作品には宗教的概念がしっかりと浮かび上がっています。

ディクソンが歌う鼻歌は「Streets of Laredo」という往年のカントリーミュージックで、これは中部ファームサイドのクリスチャンが良く口遊む歌。

更に彼を慕うジェイソンは劇中ゲイを連想させるABBAの「チキチータ」を聴いていた事で、レイシストだが神の許しを請う受難者だった気がします。

殺された娘のアンジェラの部屋に張られたニルヴァーナのポスターは有名な「In Utero」のアルバム時のモノで、その代表曲はキリスト教義に懐疑的だったカートが創り上げた名曲「Rape Me」な事にも意図的なものを感じてしまいます。

 

極めつけは、、

この映画全体を通じて表現される火の描写

 

ミルドレッドの元夫・チャーリーが燃やしたビルボードは、正しくキリスト教義上最も恐ろしい厳罰でもある火あぶりを想起させ、ミルドレッドに燃やされた警察署から逃げ出すジェイソンもまた同様。

内面は人格者だったウィロビー署長がキリストの生誕と言われる馬小屋で、クリスチャニティにおいて最大タブー視されている自殺でその人生の幕を閉じるのも、痛烈な皮肉と懺悔の象徴の様に感じられます。

彼の死後、ウィロビーが彼を慕っていたディクソンに宛てた手紙等は、新約聖書の中で使徒パウロがキリストの教えを説いた「コリント人への手紙」に大分インスパイアされた内容で、救済を待つディクソンへの免罪符そのままです。

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 鹿とミズーリ州

聖書地帯(バイブル・ベルト)と呼ばれるアメリカ中西部から南東部を舞台にした作品に多く見られるこのサブリミナル的なキリスト教精神にはどうしても拒否反応が出てしまいますが、それでも俳優の力量以上に印象的なシーンも数多くありました。

 

それはアイルランド出身のマクドナー監督らしいアメリカ人の印象と望郷の念

 

まずはウィロビーが自殺した次の日の朝に、ミルドレッドが囚人服の様なオレンジ色の服を着ているのが印象的。

これは彼女の慙愧の念を表していますが、そんな日に彼女は自分の店である男から脅迫を受けます。

そこにウィロビーの手紙を持ってやってくるのが彼の妻・アンである事は皮肉ですが、仏教的な因果も感じられます。

 

アンが夫の死の寸前、彼に伝えるオスカーワイルドの詩の引用は、監督と同じアイルランド出身の著名な退廃的かつ知的な劇作家の影響。

更にビルボードが燃やされた後、黒人の作業員・ジェロームがその予備を持って、ミルドレッドに僅かな恋心を抱く小男・ジェームズ達と看板を張り直す描写にはアメリカの多民族性を包括的に印象付けています。

これにはマイケル・ブラウン射殺事件で有名な差別的なアメリカの側面に対するアンチテーゼが込められているのでしょうが、やっぱりこの手の光景を見るとどこか心が安らいでいきます。

 

そして一番心に響くのはやはり、ミルドレッドの元に何処からかやってくる小鹿の存在

 

キリスト教的な取り方によっては悪魔の化身にも見えてしまうこの鹿は、実はアイルランドの太古ケルト民族の頃からの伝承でもある復活の象徴です。

それまでしかめっ面で気を張っていたミルドレッドが、これに失った娘のリインカーネーション(輪廻転生)を感じるのにも感慨深い思いが込み上げてきます。

 

ラストはおそらくイラク派兵時に婦女暴行をした経験を持つ男を、ミルドレッドとディクソンが州をまたいで追っていきますが、その彼の処遇は道すがらで決めるという・・・

 

『ゴーン・ガール』でも描かれた様に、ミズーリ州を舞台にした映画は正にアメリカの暗部を集約する物語の宝庫なんでしょうか?

 

様々な思惑と監督の意図が込められ、サラダボウル的なアメリカを知る上ではかなり貴重な作品と言えるでしょうが、ディクソンの母の膝にユダヤ教を暗喩的に示唆する亀が寝そべっていた時には、やっぱりどうしても作為的なものを感じてしまう複雑な心境でした。

 

『スリービルボード』
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