マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『告白』の私的な感想―痛みを知らない子供達に伝える最後のホームルーム―

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Confessions/2010(日本)/106分
監督/脚本:中島 哲也
出演:松 たか子、岡田 将生、木村 佳乃、橋本 愛、藤原 薫、西井 幸人、芦田 愛菜、新井 浩文

 暴力のない世界

暴力を受けた事のない子供が最近やけに増えている気がする。

アラフォー世代の世迷い言の様に聴こえるだろうが、ネット上の匿名で誹謗中傷が横行する現代では、自分達の頃とはあきらかにその性質が変化してきている。

万引きや煙草、いじめやドラッグなんかは迷えるティーンエージャーの世界には何時の世もつきものだが、学校や友人、更には家庭からも物理的な暴力が根絶され始めたこのご時世では、彼らはその痛みの本質を知らない。

 

テレビドラマではそんな無菌状態にようやく危機感を抱いた様で、菅田将暉の言葉を借りて、“相手の痛みを想像する”なんて台詞が声高に叫ばれるようになったが、その痛みを正面から受け止めた事のない臆病な日本人には、きっとこの感覚は鈍いだろう。

 

暴力を肯定しているかのように聴こえてしまうのであればそれもしかたないが、自分には幸いにもこの手の感情が日常に溢れていたので凄くよく伝わる。

 

暴力には様々な性質があり、苛立ちやストレス等の単純な理由から、愛情や自己表現等の少々分かりづらい類のものまで千差万別。

しかしその感情を一括りに道徳論で否定してしまうと、それが更に歪んだカタチでエスカレートしていく事に、もうそろそろ誰か気付かないものだろうか?

 

ましてや、それが自己承認欲求を強く求める子供たちからのサインだったとしたら・・

 

少々前置きが長くなったが、この映画はそんな心の痛みの本質を追求する作品。

照れ屋でメディアに日和りがちな中島監督が、珍しく直球で若者たちに訴えかけてきた彼の一番の傑作映画である事はまず間違いない。

 

 

 

 

―――中学一年の終業式を間近に控えたホームルーム。
雑然とした教室内には、飽和した空気か立ち込めている。
やがて担任の森口悠子は、静かな声色で彼らに語り出す。
「わたしは、シングルマザーです。わたしの娘は、死にました。警察は、事故死と判断しました。でも事故死ではありません。このクラスの生徒に殺されたんです」
やがて静まり返る教室で、命の重さを説く彼女の最後のホームルームが始まる。。。

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 命の重さ

グレースケールのかかったダークなトーンのビジュアルは、カラフルな夢の国を描く中島作品の中では王道の対比描写。

そこにスローモーションで降る雨や雪、そして雲がかった大空が映し出されれば、それは中島作品の真骨頂でもある荒んだ現実の中でから騒ぎをする人間達のメタファーでもある。

更にこの作品では、想像力のない子供に幼子を殺された松たか子演じる中学教師が、のっけからモノローグ調に無表情のままで生徒たちに最後の授業を説いてみたりするものだから、もう、その恐怖は計り知れない。

やがてその彼女の“告白”にオーバーラップする形で事件に関わった生徒たちの独白が続いていくのだが、台詞と映し出される人物の表情とが絶妙にかみ合わないその描写との対比を辿っていくと、上辺だけを取り繕う歪な現実とそれに開き直ってみせる本音とのギャップが深く胸に沁み込んでくる。

 

そしてその真相が明るみになってゆく。。

しかし教師も含め、登場人物には全員に過失があり、善悪の基準は定まらない。

そんなこの映画の根底に根強くあるものは、娘を殺された母親の憎しみの感情だが、それは劇中で解決もしなければ報われもしない。

ここで少年法に守られた子供たちへ、命の重さを伝える壮絶なホームルームが始まっていくのだが・・ 

 

 

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 痛みを知らない子供への究極の愛情

この映画を観終えた後には、自分には生まれてくる大きな感情があった。

それは冒頭でも述べた、暴力の是非

我が子を殺した犯人を知っていた森口は、どうしてその子をひっぱたかなかったのか?

犯罪に手を染めてしまった生徒は、何故その感情をむきだしに出来なかったのか?

事件を知った生徒達は、何故その生徒をいじめではなく殴れなかったのか?

等々、上げたらきりがないくらい、暴力で伝えるべき感覚が劇中には溢れている。

 

しかし全体感情に寄り添う日本人は、それを認める事が出来ない。

 

そんな欧米のテンプレートに従った非暴力の矛盾を意図的に暴露してきた中島監督は、遠回しだが、迎合する暴力だけでは相手に何も伝わらない事を、逆説的に暗喩しているような気がしてくる。

 

・・そして、執念ともいえる母親の復讐劇が始まっていくのだが・・・

しかしそれは同時に、痛みを知らない彼らにそれを教える究極の愛情でもある。

 

Radioheadの気怠い『Last Flowers』のナンバーに乗せ、ここら辺の歪みを憂慮した監督の意思がどこまで受け手側に届いているのかは分からないが、私的には孤独を抱える全ての子供達の道徳の授業にも観せたいくらいの強いメッセージが込められた作品だ。

 

相変わらず照れ屋の監督の演出で、ラストカットで思わず日和ってしまった台詞さえなければ、実は2010年度のアカデミー賞の外国語映画賞部門にノミネートされていたこの作品は、滝田洋二郎の『おくりびと』の栄誉を遥かに凌いだ上で、『万引き家族』より数年早く、日本人に蔓延する歪みを暴きだした問題作として歴史にその名を刻んでいただろう。

 

尚、この映画の撮影中に過重労働で事故死した進行部の彼に、深く哀悼の意を表すると共に、映画を作るという事が如何に過酷で報われない思いとの狭間で真摯に向き合っている作業なのかを、その死をきっかけに、皆さんが少しでも想像してみて頂けると大変にありがたい。

 

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