マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『哭声/コクソン』の私的な感想―福音書に準えた韓国発のアルマゲドン―(ネタバレあり)

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곡성(哭聲)/2016(韓国)/156分
監督:ナ・ホンジン
出演:クァク・ドウォン、ファン・ジョンミン、國村隼、チョン・ウヒ、キム・ファニ

 超現実主義的異次元映画

またシンドイ映画を観てしまいました。。

冒頭にルカによる福音書のインタータイトルが出てきた時点で、なんか嫌な予感がしてたんですが・・

ダーレン・アロノフスキー監督の映画『mother!』の韓国版かとも思ったんですが、この作品は更にその上をいく難解ぶり。。。

多分キリスト教の中でも更にバプテスト教会の教えに傾倒している人でもない限り、この映画のトリックにまんまとハマってしまうでしょう。

 

監督は『チェイサー』、『哀しき獣』の等で注目を集める新進気鋭の監督ナ・ホンジンで、彼はこの作品を、

「(一つの事件の)被害者がどんな原因によってなぜそのような事件に巻き込まれることになったのかについて書いてみたいと思ったのです。彼らがなぜそんな悲惨な経験をしなければならないのかについて、色々と考えさせられる映画を作りたかった。」

そうなので、韓国特有の人間臭い映画なのかと思いきや・・

 

もう正直、何と説明していいか分からない映画です。。。

 

冒頭は『殺人の追憶』を漂わせるさせるサスペンス調で始まり、

途中から『28日後...』のような感染ホラーものを想起させ、

ラストは『mother!』の聖書的メタファを彷彿とさせていく、

正に異次元の映画です。

 

それでも、

 

『新しき世界』での悲しいやくざの名演が光ったファン・ジョンミン『地獄でなぜ悪い』以降老獪で味のある存在感を際立たせてきた國村準の二人の助演が、とてつもなく異彩なオーラを放っていた味わい深い作品である事は間違いありません。

 

ただ・・

 

・・この映画は聖書の福音書に依拠した超現実主義的映画なので私的にはあまり好きではありません・・・

 

オススメ映画を紹介するブログのくせに、最近よく批判的な内容を書いてしまっていますが・・

 

それでも何かを深く考えさせられるというテーマの映画としては中々印象的ではある作品なので、今回はネタバレアリの解説と勇気をもっての主観的な一部の偏ったキリスト教批判を交えて述べていきますので、まだこの作品をご覧になっていない方はご注意下さい

  

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―――穏やかな韓国の農村、谷城(コクソン)。
田舎の派出所勤めのクァク・ドウォン演じる警察官のジョングは、ある朝村で殺人事件が発生した為、早朝に家を出る。
現場の家では無残な惨殺死体が転がっており、その縁側には身体中謎の発疹に塗れた男が抜け殻の様になり座っている。
ジョングは困惑しながらも、警察の公式見解である幻覚性きのこの摂取による錯乱症状での犯行と自分を納得させるが、やがて彼は村人の間で囁かれる山中に潜む謎の日本人の存在を知ってしまう。

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 映画に隠された福音書

・・プロローグを読んで皆さんはどう感じましたか?

自分もそうでしたが誰しもがサスペンスかスリラーのような映画を想定しますよね?

ご覧になった方はご存知でしょうが、映画は最後までスプラッターに塗れた猟奇的な事件が多発していきます。

しかしここで思い出してほしいのがこの映画のキャッチコピー

 

「疑え。惑わされるな。」


ちょっとトリッキーなこの言葉に、自分はこの映画の犯人を見間違えるなというような趣旨の宣伝文句だと思っていました。

 

・・しかし実は、

この時点でもう間違っていました。。。

 

実は、このキャッチコピー自体が既にミスリードを誘っていて、本当は、、

 

これはこの映画の見方そのものを指しています。

 

つまりこの映画は、

サスペンススリラーの様に見せた、オカルトホラーの要素をふんだんに盛り込んだ、実体は奥深い叙述トリックの宗教映画なんです。。。

 

キリスト教に知識が浅い自分たち日本人の為に、冒頭に出てきたルカによる福音書の引用を交えながら解説しておきます。

 

ルカによる福音書とは?

「ルカによる福音書」とは西暦58-65年頃に書かれた新約聖書の一つ。
使徒パウロと共に旅をしていたキリストの教えの求道者だった異邦人の医者ルカが、友人のローマの執政官テオピロに主の口伝の文書化と使徒の働きをまとめる為に作られたレポート。
イエスの血筋の紹介やパプテズマのヨハネの誕生の話から始まり、良きサマリヤ人の例え話等でイエスの憐憫の情に満ちた赦し等を多く示しているのが特徴。
やがてイエスはユダヤ人宗教指導者達によって迫害され、裏切られ、十字架にかけられ処刑されるが、イエスは蘇り、今も尚人々の救済の働きをしている事を示している。

 

引用源:世界大百科事典 第2版、Got Questions?ールカの福音書ー、「ルカの福音書」を味わう - 牧師の書斎

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 登場人物たちに秘められた暗喩

少し全体像が見えてきたでしょうか?

ここからはあまりにも不可思議だった登場人物たちに秘められたそれぞれのメタファを紹介していきます。

 

クァク・ドウォン演じる警察官のジョング=ユダヤ教指導者(ファリサイ派、律法学者)

國村準演じる謎の”日本人”=イエス=キリスト

ファン・ジョンミン演じる祈禱師=使徒パウロ

チョン・ウヒ演じるムミョン=マグダラのマリア

 

と言われてもイエス=キリスト意外に敬虔なクリスチャンでもない限り、ピンときませんよね・・?

なので彼らを福音書にのみ沿ってそれぞれの叙述を劇中の出来事に絡め説明していくと、

マグダラのマリア・・キリストにつき従い奉仕した婦人の一人。(亜使徒)始めは信仰を持たない娼婦だった彼女はキリストから7つの悪霊を追い出してもらってから彼に従うようになり、その後キリストが十字架に磔にされる様子を遠くから見守る。

使徒パウロ・・元々は熱心なユダヤ教徒でキリストを迫害する側についていたが、天からの光とともにイエス・キリストの声を聞き、その後、目が見えなくなる。アナニアというキリスト教徒がその後神のお告げによって彼のために祈るとパウロの目から鱗のようなものが落ちて、目が見えるようになり、キリスト教に回心する。

ユダヤ教指導者・・自分たちの信仰を守る為、基本的にはキリストに批判的かつ敵対する人々。ルカによる福音書6:11では彼らはキリストの発言に怒り狂い、10:29では自分たちを正当化しようとし、19:47ではキリストを殺そうと謀る。

 

・・映画を観られた方には想起させられるシーンが多く含まれていたのではないでしょうか?

 

以下のシーンも柱を隔てて、キリストとユダヤ教指導者(警察官)の対峙を暗喩しています。

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あえてキリストにユダヤ人の隣人に準えた韓国にとっての隣国日本の俳優國村準を起用し、彼の劇中の台詞にも自分の教えを信じない者たちへの憐みを散りばめたのもこれが目的です。

この作品は「レヴェナント 蘇えりし者」でクリスチャニティへの造詣を深めたレオナルド・ディカプリオがリメイク権を購入したので、何時かはハリウッドで上映される日がくるのかもしれませんが、如何にキリスト教圏のアメリカといえどもこの映画の真意を本質的に読み解ける観客が何人いるのでしょうか?

 

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 「事件」そのものの暗喩

しかしここまでなら、『mother!』のような宗教的シュルレアリスムな映画としてなんとか理解できたのですが、この映画の大きな問題は劇中で起こる猟奇連続殺人事件そのものがキリスト教においての最後の審判を暗示させている点にあります。

最後の審判とは?

世界の終わりにイエス・キリストが再臨し、あらゆる死者をよみがえらせて裁きを行い、永遠の生命を与えられる者と地獄に墜ちる者とに分けるという。

wikipediaより

 

つまりは、

 

ジョングの娘のヒョジンを含めた謎の発疹により理性を失っていた人々の痣は、

キリストの復活を確信した時に発生した、國村が演じた主の手に残るスティングマータ(聖痕)と同じ意味合いを持ち、

國村が烏を生贄に復活させていたゾンビの様に暴れ回る人々は、

主の使いによって復活した、主を信じ不信仰な者たちを地獄に落とす者の化身であり、

”日本人の男”やムミョンに疑いを持つジョング達や村人たちの存在は、

主の復活に否定的な、邪悪で不敬虔なユダヤ教の信者たちであるという事。。。

 

・・仮に実際、何時の日か最後の審判が訪れるとして、

この映画を観賞した上でも、はたして何人の人間がこの逆説的な神の復活を信じられるでしょうか・・?

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 監督の思い

ここで今一度、このブログの冒頭に記した監督がこの映画で伝えたかったテーマを読み返してみて下さい。

 

監督はこの映画を通じて、誰に、何を考えさせたかったんでしょうか?

 

劇中の殆どの出来事はその見た目とは逆説的なメタファ。
(病院での治療=異端の教え)(鹿肉を貪り食う日本人=キリストの復活の象徴)(祈祷師の派手な悪霊退治=ユダヤ教のラビによる儀礼/ブルカット・ハ・ミニームの呪い)等

 

そしてラストにジョングが、ムヒョンに言われる台詞、

「もうすぐあそこの家で鶏が3回鳴く、それまでは帰ってはダメ」

これは、

ヨハネの福音書13:38に記された、

イエスは答えられた、「わたしのために命を捨てると言うのか。よくよくあなたに言っておく。鶏が鳴く前に、あなたはわたしを三度知らないと言うであろう」

という予言が記した、答えそのもの。。。

 

・・そしてご存知の通り、未だ不勉強だった使徒パウロと覚醒したマグダラのマリアに翻弄されたジョングは、不安になり、娘の安否を思い家に戻ってしまうと・・・

 

最後に、自分がこのラストシーンから思い出させられた聖書の一節を引用してみます。

彼を信じる者は、さばかれない。信じない者は、すでにさばかれている。神のひとり子の名を信じることをしないからである。
そのさばきというのは、光がこの世にきたのに、人々はそのおこないが悪いために、光よりもやみの方を愛したことである。


ヨハネによる福音書/3:18-19

 

クリスチャンであるナ・ホンジン監督は、祈祷師役のファン・ジョンミンに運命的なインスピレーションを感じてキャスティングしたことを述べています。

更にキリスト役の國村を音読みにすると「コクソン」という・・

なんかこの寒いダジャレも含めて、自分はナ・ホンジン監督がこの作品を製作する過程からも随所に意図的なものを感じてしまいます。

劇中に紛れ込ませたすべてのミスリードも合わせ、彼は意識的に未知なるものへの人々の混沌と混乱を生み出していないでしょうか?

 

つまりキリスト教理上、最後の審判の後にくるハルマゲドンによってこの想像を絶するカタチでやってくるキリストの再来で地球上の殆どの人間が不信仰のまま救われずに闇に堕ちるという・・・

 

この傲慢な選民思想こそ、自分が若かりし日にキリスト教に触れ、嫌気がさした根源です。

 

・・皆さんはどう感じられたのでしょうか?

聖書に準えた悪魔の復活を描いた作品はコチラ
www.mariblog.jp

『哭声/コクソン
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