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映画『クヒオ大佐』の私的な感想―実在した天才詐欺師の半生―

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クヒオ大佐/2009(日本)/112分
監督:吉田 大八
主演:堺 雅人/松雪 泰子、満島 ひかり、中村 優子、新井 浩文、安藤 サクラ

 実在した詐欺師の半生をモチーフにしたハートフルドラマ

『腑抜けども、悲しみの愛をみせろ』のレビューでも紹介したとおり、俳優の個性をうまく引き出しその心理描写を丁寧に描くことで定評のあるこの吉田大八監督の初期作品は、結構コミカルなモノが多いようです。

 吉田監督のデビュー作『腑抜けども、悲しみの愛をみせろ』の感想はこちら


70年代から90年代にかけて、総額1億円以上を騙し取った天才詐欺師「ジョナサン・エリザベス・クヒオ」をモデルにしたこの作品は、史実をベースにその当時の被害者の女性達の心情や、クヒオ大佐自身の心の葛藤等を独特な吉田ワールドで丁寧に解釈し描いています。

エリザベス女王の双子の妹の息子でカメハメハ大王の末裔でもあり、6歳でワシントン大学を卒業した横田基地所属のアメリカ空軍のパイロットなんていう、余りにも浮世絵離れした経歴をもつこの男に何故、何人もの女性が騙されてしまったのでしょうか?
 

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 「嘘」が必要だった女性達

実際に起きた事件に基づいた作品で、その犯人や被害者の心情を映像として描写するのは容易な事ではありません。

この作品においての事件は結婚詐欺なので、そこまでのプレッシャーが俳優陣にあったようには見えませんが、それでも被害にあった女性達の心境を想像し演じるにはそれなりに五感を研ぎ澄ませていないと出来ません。

がそれはさすがの名女優達。
  

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クヒオに貢がされる弁当屋女社長しのぶ役の松雪泰子
男性経験が少なく、何処までも彼の嘘を信じ尽くし続ける。
 

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博物館に勤める地味で真面目な女性ハル役の満島ひかり
彼氏と別れたタイミングでクヒオに何となく惹かれ、一線を越えてしまう。
  

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煌びやかな銀座のネオン街のホステス、未知子役の中村優子
近づいてきたクヒオを唯一手玉に取る女性だが、どこかクヒオと共鳴し合っている。

この三人の名女優達の演技によって、堺雅人演じるクヒオ大佐の存在にも一段と奥行きが感じられます。

3人の女性たちはそれぞれ違ったアプローチの仕方でクヒオから近づかれますが、その全員の共通点は、どこかふわふわとした地に足のついていない現実に生きているというコト。

彼女達にとってクヒオは現実逃避の象徴であり、その隙に彼はふんわり寄り添います。


そして彼のふとした描写から垣間見える少年のような優しさが、彼女達を癒し、何時しか惹かれ合ってしまう・・

99年に詐欺容疑でようやく実際の彼は逮捕されますが、法廷でも一貫して自分は詐欺ではなく女性達から貰った金は全て正当な対価だったと主張しています。

多分、彼自身も本当にそう信じているのでしょう。

不幸な生い立ちから少年の心のまま大人になってしまった彼は、妄想する事でつらい現実を回避し、そしてその持って生まれた天性の優しい妄想で、女性達に一時の甘い夢を見せるコトでなんとか生き抜いてこれた人間だったんじゃないでしょうか?

劇中に出てくる「好きだから騙す」という台詞がどうもしっくりきてしまい、同性ながら、自分にも彼女達と同じ隙があるのかもと思い卒倒してしまいました。

この映画は、そんな滑稽で稚拙だけれどもどこか切ないクヒオ大佐を、優しくコミカルに堺雅人が熱演し、更にそれを監督が社会風刺を交え、丁寧に詐欺師の刹那を描写した作品です。

しかし本当にコミカルだったのは、、 

劇中冒頭とラストに特出的に出てくる内野聖陽に向けて、妄想の中クヒオが自分の罪を自己弁護し、それに言い返す彼の台詞、

「アメリカと同じ理屈を言うな!」

これは、、

映画公開当時、石油の利権狙いで、クウェートに侵攻していたイラクと世界秩序の回復という名目で戦争を始めていたアメリカの言い訳とクヒオ大佐の言い訳とを掛けています。。

余りにも唐突で、正に誰にも伝わらないこのシニカルさが、早大出身の吉田監督らしい、歯に衣着せぬ映像を通じての、かの国に対するアンチテーゼだったのでしょう。

吉田大八監督の最新作はコチラ

 

『クヒオ大佐』
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