똥파리/2009(韓国)/130分
監督、脚本、編集:ヤン・イクチュン
主演: ヤン・イクチュン/キム・コッピ
シバルラマ
久々に邦題がしっくりくる映画です。
原題の『똥파리』(トンパリ)とは「クソバエ」を意味する罵倒語らしいですが、そんなかわいい表現じゃ表しきれないくらい、本編は終始、怒りに満ち溢れています。
正に『息もできない』くらい胸が締め付けられるので、観賞の際はアルコールは是非抜いてからどうぞ。
韓国語の知識は全くないんですが、この映画をみると誰でも必ず一つだけ覚えられるコトバがあります。
シバルラマ(씨발라마)と言ってどうやらシバル(씨발)という罵倒語が訛ったスラングらしく日本語で言えば「んんだ、このクソ野郎!」くらいな感じでしょうか?
ヤン・イクチュン演じる主人公サンフンは、劇中200回くらいこのセリフを吐き捨てるんですが、30分もするともうすっかり聞きなれてしまいます。
しかし物語が進むに連れ、それが相手に対しての侮蔑なのか、自分に対しての憤りなのか、観ていると段々分からなくなってくる、そんな行き場のない切なさ。
その彼の思いは、あまりに不器用でストレート過ぎて、普通に暮らしてきた人達にはこの映画の持つ本当のメッセージが中々伝わりづらい映画に感じてしまいます。
―――主人公のサンフンは、母と妹を父親の暴力によって早くに亡くし、荒んだ幼少期を過ごす。
やがて成人した彼だったが、その心は荒れ果て、友人と共に取り立て屋のチンピラ家業としてその日暮らしの毎日。
そんなある日、道端で出逢った女子高生ヨニに喧嘩を売られたサンフンは、思わず彼女の顔面を殴ってしまう。
気絶して倒れる彼女が少し気になりつつも、何も出来ないでいるサンフン。
やがて起き上がった彼女は戸惑うサンフンに全く動じず、ある提案を持ちかける。
連鎖する暴力
副題にも勝手に付けちゃいましたが、この映画のテーマはこの一言に尽きます。
まず初めに、自分はこの映画を久々に友人と一緒に観ましたが、彼女は始まって10分もしないうちにシンドくなって席を立ってしまいました。
冒頭から続く手持ちの激しいカメラワークで画面がぶれるという原因もありますが、彼女にとっての一番の苦痛はその苛烈な暴力描写。
バイオレンス映画畑出身なのでこの手の暴力シーンなぞ完全に慣れてしまっていたんですが、やはり普通の生活を送ってきた人間にとってはちょっと耐え難い様です。
そして劇中サンフンに殴られたヨニが起き上がり、彼に治療費を請求するシーン。
二人はそのまま階段で酒盛りを始めるんですが、彼女はこの場面にもツッコミを入れてきます。
私的にはストンと入ってきたシーンなんですが、そこで気付いたのは、、
暴力は慣れるというコト。。
単純な様で、人が付きあっていく根幹に関わっている事な気がします。
自分は世代的にも家庭環境的にも、結構身近に暴力があったのでこれまでそんなに意識しませんでしたが、この違いはどうもかなり大きいみたいです。
自分にはどこかに暴力を受け入れる耐性が出来てしまっているのかもしれません。
この映画のレビューでも多く見られる、ユニが自分を殴ったサンフンと親交を深めていく意味が分からないというのは正にそれで、私的には彼女もサンフンと同じ身近な暴力を受け続けてきていたので、すんなり彼の苛立ちが理解出来てしまったと思うんですが・・
ユニは母親をチンピラに殺され、戦争によるPTSDを抱えた父と金をせがむだけの弟の世話に追われる毎日。
サンフンは甥っ子に不器用な精一杯の愛情を注ぎますが、彼の暴力の連鎖は自分でも止めようがありません。
やがてそんな空しさの中で、自然に惹かれ合っていくふたりが防波堤で泣き出すシーンには本当に胸が痛くなります。
ラストではサンフンと同じチンピラに落ちぶれてしまったユニの弟が、不法屋台をぶち壊しているシーンがありますが、
・・これが韓国の底辺の実情なんでしょうか?
救われない貧困と暴力の負の連鎖が、永遠に続いていくかのような・・
二人が求めていたのは、なんでもないただの家庭。。
ちょっと身につまされた記事を見つけたのでよろしければ。
人の根源的なこの幸せを、貧困階級で育った彼らはどうしたら手に入れられたのでしょうか?
・・解決法?か分かりませんがご参考までに。
・・ちょっと語弊があるかもしれませんが・・
皮肉にも元々耐性が出来てしまっていた自分ですが、この作品のおかげで連鎖する暴力をどこかで受け容れる勇気が必要なのではないかと考えさせられてしまいました。
『息もできない』は
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