マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『デビル』の私的な感想―M・ナイト・シャマランが仕掛ける悪魔の罠―

f:id:maribu1125:20181031082630j:plain

Devil/2010(アメリカ)/80分
監督:ジョン・エリック・ドゥードル
出演:クリス・メッシーナ、ローガン・マーシャル=グリーン、ボヤナ・ノヴァコヴィッチ、ボキーム・ウッドバイン

 M・ナイト・シャマランの世界観

冒頭の数分を何気なく見流してしまうと、この映画の印象はガラッと変わってしまう。

クローズド・サークル・ミステリーの代名詞でもあるアガサクリスティーの「そして誰もいなくなった」をモチーフにして作られたこの作品は、高層ビルのエレベーター内に閉じ込められた人間達の奇怪な顛末を描いていく。

その様子はまるっきりソリッド・シチュエーション・スリラー的要素満載なのだが、ファストカットの天地が逆転した空撮映像、飛び降り自殺者の手に握られているロザリオ、更にはその男が落ちた車が何故か現場近くに居合わせた刑事の元に移動している点等、大分不可思議な現象が多い。

つまりその全ては冒頭のインタータイトルに記された聖書からの引用の通り、監督の影にこっそり隠れながらも、製作陣の筆頭に名を連ねるお馴染みM・ナイト・シャマランがしかける邪気を帯びたトリックなわけだ。

 

あの有名な『シックス・センス』を皮切りに、『アンブレイカブル』『サイン』と数々のトリッキーな作品で一躍脚光を浴びていた彼は、ここ数年でその評価を崖っぷちまで落としてしまってはいるが、私的には彼は類まれな天才肌の監督の一人だと思っている。

彼の超自然主義的な発想は、ヒンドゥー教からカトリック、更には医者の家系で生まれ育ったその生い立ちから発露した宗教に対する素朴な疑問を常に内包しているが、その逆説的な立場から問いかけてくる謎は観客を大いに魅了してくれる。

ありあまる家族の資金力を背景に成功を収めた点と、全てのミスリードを神体的なモノに準えてしまうその強引な手法は否めないが、それでもこれまでの作品群で世界中の観客に何とも言えないワクワク感を与えてきてくれたその実績は十分賞賛に値するだろう。

そう考えると彼の手掛ける作品は、脚本の粗さが少々目立ちつつも、大風呂敷を広げた壮大なスケールの世界観の中に、日本人には馴染みの薄い宗教的なレトリックを分かりやすく散りばめてくれた、万人を楽しませる事の出来る一級品のエンターテインメント作品にさえ感じられてくる。

 

 

 

 


―――高層ビルから転落死する男。。
その頃、そのビルのエレベーターの中には5人の男女が乗り合わせていた。
やがてそれは緊急停止し、救助がなかなかやって来ない中、彼らは徐々に疑心暗鬼に包まれてゆく。。
しかし偶然近くに居合わせていた刑事が、警備員の通報によってすぐさまやってくるが、彼らが到着した後も、更なる奇怪な現象が巻き起こり続ける・・・

f:id:maribu1125:20181031082647j:plain

 悪魔から仕掛けられるレトリック

シャラマン劇場の面白味は、まずその劇中の人物構成

 

彼自身を投影させたかのようなアラビックのセールスマン。
スラブ系の美女とカントリーサイドの何処でも見かけそうなオーソドックスな老婆。

更に一癖ありそうな黒人青年にジョッグス的な白人男性と、狭い空間の中にコンパクトなスモールアメリカが見事に集約されている。

そこに信心深いヒスパニック系の警備員と、トラウマを抱えていそうなフィラデルフィア市警の殺人課刑事なんかが加わってくるこの映画は、正にスタンダードなポップカルチャー映画の象徴とも言えるだろう。

 

そしてここからが彼の真骨頂なワケだが、、

彼のエンターテインメント性は、観客の思い込みを見事に裏切ってくれる。

冒頭で説明した通り、ミステリー調で始まるこの作品に実は有機物的な犯人は存在しない。。

全ての事象は、暇を持て余した悪魔の降臨劇によるトリックなわけだ。

そんな風にやっと観客が目線を整えていると、シャラマンは直ぐに次の謎を用意してくれている。

つまり、密室殺人に見える登場人物たちの中で誰が悪魔なのかを観客に探させていくのだが、次々に闇の力によって抹殺されていくキャラクター達を目で追っていると、直ぐに困惑させられてしまう。

このちょっとVRチックに、観客のココロを劇中の人間達に同時リンクさせていくレトリックは全く見事で、その不信感は尻上がりに徐々に増幅させられていく。。

 

ホラー映画ではあるがビジュアル的な惨劇シーンが少なく、80分とシンプルにまとめられた尺のおかげで結構気軽に手を出せてしまう作品だが、ハロウィンの高揚感に飲み込まれている若者たちは、ラストに待ち受ける贖罪の定義と赦しの意味までしっかり見定めて、この作品の放つ相互作用的な魔力に安直に吸い込まれてしまわないように・・・

 

『デビル』は以下のVODで観賞できます。

最大手のレンタルと言えばTSUTAYA TV
(月額933円/無料期間=30日間)
個別課金のみで観るならAmazon Video
(レンタル199円/HD購入1500円

sponsored link