マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『フラクチャード』の私的な感想―砕かれた男の見る白昼夢―

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Fractured/2019(アメリカ)/99分
監督:ブラッド・アンダーソン
主演:サム・ワーシントン/リリー・レイブ、スティーヴン・トボロウスキー

 砕け散った男

思い込みの激しいオトコが、夜中にひっそり膝を抱えて見るには十分の映画。

サイコパスなんてコトバじゃ片付けられないくらい、怯える目をしたサム・ワーシントンの儚さに、終始ため息が漏れまくっていた。。

 

世界のホラー映画界の巨匠13人なんかにちゃっかり選ばれたりしているこの映画のブラッド・アンダーソン監督に、ミスリードやスリリングな展開のプロットは書けない。

『マスターズ・オブ・ホラーの正当な続編『13 thirteen』なんかでも、王道のクラシックホラーを貫くジョンカペや、長年悪魔崇拝思想にブレの無いダリオ・アルジェントあたりの名匠監督達と並べてしまうと、そのホラー映画特有の映像美にも、どうもパンチが弱い。


それでいて、彼が他のホラー映画界の重鎮等と肩を並べられるのは、間違いなく、その抜群のキャストセンス

彼の代表作となった『アサイラム 監禁病棟と顔のない患者たち』も、そのストーリーは有り体過ぎて殆ど忘れてしまったけど、鬼気迫る迫力のマッドサイエンティストを演じたベン・キングズレーの醸し出す狂気だけは、今でもしっかりと記憶に残っている。

 

そんな彼が『マシニスト以降、さっぱり主演する役者に恵まれなかった土壇場から、一気にその窮地から挽回してみせたのがこの作品。

本作の主演で、ようやくハリウッドに返り咲き始めたサム・ワーシントンは、正にタイトル通りに一度“砕けちった男”なので、そのリアルな陰鬱さは、圧巻の減量で不眠症の男の憂鬱を演じたクリスチャン・ベールを凌ぐほどに、慢性的に自尊心を傷つけられる事に怯えるな男の不安心を、その瞳の奥底にしっかりと滲ませてくれている。

 

 

 

 

あらすじ
怪我をした娘を連れ救急外来を訪れた男。
だがその院内で妻と娘がこつ然と姿を消してしまう。
必死で2人を捜すうち、病院が何か隠しているのではと疑い始めるが…
Filmarksより抜粋

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シンパシーを誘う心理トリック

彼の映画を見る際に、その展開の読めてしまう王道のミステリーを揶揄するのは、ちょっと野暮だ。

彼の表現力は、タガの外れかけた俳優達の実際の狂気を、フィルムにきちんと焼き付けられるトコロ。。

 

ジェームズ・キャメロンの超大作映画『アバター』の主人公に抜擢されて以降、勘違いキャラの若干メンドクサイ俳優のイメージがついてしまったサム・ワーシントンは、私生活でもやんちゃが絶えないが、彼のその危うい思い込みは、劇中の夫・レイのイメージともピッタリ重なる。

その妻役に『アメリカン・ホラー・ストーリー』ですっかりホラードラマクウィーンの座を手に入れたリリー・レーブとくれば、説明が一切なくても、自ずと不協和音が聴こえてくる。。

 

そして何よりも、彼らの醸し出すアンサンブルには皮肉が一切ない。

夫のレイが、妻のジョアンと娘を地下へと続くエレベーターホール前で見送る際には、正に画力だけで不安心を増幅させ、その彼らの目元に掛かる陰影は、心理的な恐怖をどストレートに伝えてくる。

 

更に、、

冒頭から垣間見せる、夫の言いようのない苛立ちや妻子への虚栄心に、身に覚えがあったりしたら、視聴者の負け・・w

その受け手のシンパシーを絶妙に誘うトリックこそが、際立った個性のないブラッド・アンダーソン監督特有の、巧妙なテクニックの一つとも言える。

 

やがてすっかり彼の術中にまんまとハマり、寂し気な瞳で狼狽えるサム・ワーシントンに、ダメンズな自分達の抱える瑕疵を重ね合わせてしまうと、その展開にある程度予想がついたとしても、最早VR状態でラストまで突き進んでしまうだろう。

 

・・もっとも、妙におでこの広いその幼い娘役の少女に、最初から不気味な違和感を感じなければの話だけど。。。

 

「フラクチャード」
Netflixでのみ観賞できます。

www.netflix.com

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