Once Upon a Time in Hollywood/2019(イギリス、アメリカ)/161分
監督/脚本:クエンティン・タランティーノ
出演:レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、ダコタ・ファニング、アル・パチーノ
歴史に消えた悲劇への鎮魂歌
遊びの過ぎるタランティーノ映画はあんまり得意じゃない。
けれど、彼ほど映画界をまるごと愛してやまない熱狂的なオタクも、そうはいない。。
満員御礼の映画館だったので殆ど最前列での鑑賞しかできず、派手なアクションがウリのいつものタランティーノ節にちょっと身構えてたのだけど・・
開始早々の勢いはどこ吹く風、いつものぶっちぎったタランティーノの妙味が全然出てこない。。
仰々しい劇中音楽はすっかり鳴りを潜め、お馴染みのナレーション遊びも随分控え目。
そればかりか、二大ビックスターもどこかやつれた様子で、ディカプリオには『ジャンゴ』のカルビンの頃の余裕はなく、ブラピの目にも『イングロリアス・バスターズ』のアルド・レイン中尉のような狂気は伺えない。
“ハーレイ・クイン”ことマーゴット・ロビーだけが、日本で言うトコロのアムラースタイルで颯爽と街を闊歩していたが、ハリウッド版『Death Note/デスノート』で将来を嘱望されたはずのマーガレット・クアリーなんかは、“プッシーキャット”なんて通り名までつけられて、『デス・プルーフ in グラインドハウス』に登場しそうな、役名通りのフッカーそのまんま。。
それでも往年の名優、ブルース・リーの見た目にかなり近づけた俳優との乱闘シーンや、スティーブン・マックウィーンの雰囲気をそっくり踏襲したウェスタン調のフィックス映像を随分丁寧にトレースするタランティーノの新味に違和感を感じていたら、、
周りの観客のひそひそ声で、この作品がある事件にインスパイアされて作られた映画である事をようやく知った。
シャロン・テート殺害事件
シャロン・テートは、1960年代にテレビの人気シリーズに出演し、その後、映画に進出した女優。
映画『吸血鬼』で共演したのが縁で1968年1月20日に映画監督のロマン・ポランスキーと結婚したが、翌1969年8月9日、狂信的カルト指導者チャールズ・マンソンの信奉者達の一人、スーザン・アトキンスら3人組によって、一緒にいた他の3名の友人達と、たまたま通りがかって犯行グループに声を掛けた1名と共にロサンゼルスの自宅で殺害された。
マンソンはシャロンの前にその家に住んでいたテリー・メルチャーが、マンソンの音楽をメジャーデビューさせられなかったことに逆恨みし、当時妊娠8か月だったシャロンの腹の赤子もろとも、16箇所の刺し傷を負って惨殺された。wikipediaより抜粋
つまり、史実を映画で塗り替えるいつものタランティーノ遊びは、今回はそんな歴史に消えた悲劇へのレクイエムから始めたかったのだろう。
そう考えると、旬をとうに過ぎたカート・ラッセルやダコタ・ファニング等の友情出演枠のキャストに、妙に必要以上のピンスポットを当て哀愁を膨らませていた理由にも、なんとなく納得が出来てしまう。
それでも、、
豪華俳優陣が総出演したこの映画に、冒頭5分の登場であっさりその出演シーンのほとんどが終わってしまったアル・パチーノだけは、予告からして、あまりにもちょっと反則過ぎませんか・・?
あらすじ
リック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)は人気のピークを過ぎたTV俳優。
映画スター転身の道を目指し焦る日々が続いていた。
そんなリックを支えるクリフ・ブース(ブラッド・ピット)は彼に雇われた付き人でスタントマン、そして親友でもある。
目まぐるしく変化するエンタテインメント業界で生き抜くことに精神をすり減らしているリックとは対照的に、いつも自分らしさを失わないクリフ。パーフェクトな友情で結ばれた二人だったが、時代は大きな転換期を迎えようとしていた。
そんなある日、リックの隣に時代の寵児ロマン・ポランスキー監督と新進の女優シャロン・テート(マーゴット・ロビー)夫妻が越してくる。
今まさに最高の輝きを放つ二人。この明暗こそハリウッド。
リックは再び俳優としての光明を求め、イタリアでマカロニ・ウエスタン映画に出演する決意をするが―。
そして、1969年8月9日-それぞれの人生を巻き込み映画史を塗り替える【事件】は起こる。
Filmarksより引用
俳優社会のパラレルワールド
シャロン・テートの身に起きた悲劇に目を向ける前に、この映画は、まず俳優社会の嚆矢について、ちょっとだけ理解を深めておくと物語の奥行が広がる。
現在の日本でも薄っすらと受け継がれている事だけど、、
映画俳優とテレビ俳優の間には、一般の方が想像しているよりも、実は遥かに大きな隔たりがある。
近年、映画の脇役俳優からスター街道を駆け上った男と言えば、『24』でお馴染みのジャック・バウアー事キーファー・サザーランドが有名だが、これは俳優行政で言うトコロの、“都落ち”。
万引き癖を克服し、『ストレンジャー・シングス』で俳優としての復帰を計るウィノナ・ライダーなんかでも実は同じ感覚で、つまり俳優が憧れる花形枠は、常に銀幕の世界にある。
逆に、ドラマが一大社会現象まで巻き起こす日本では、この逆転現象がよく見られるが、それでも連ドラで人気を博した主役級俳優達が、スクリーン上で日の目を浴びれない事は、決して少なくない。
これは源流の慣習をしっかりなぞってきた現象でもあるが、日本の中途半端なアイドルやライダー上がりの俳優陣が、テレビドラマ界から大きく跳躍していくことのできない所以でもある。
古くは三船敏郎や三國連太郎等に通じる様に、映画俳優には決定的なカリスマ性と、不器用な品格が求められる傾向が強く、VODがドラマの主流を脅かす現象が近づき始めた近年でも、そのイニシアティブは変わらない。
つまり、圧倒的な表現の自由を求める俳優達は、常に映画界にその焦点を置いている。
劇中に登場するリック・ダルトン事ディカプリオは、ハリウッドに大きな変革期をもたらした、テレビドラマの世界的な普及を背景に持ちながらも、この映画業界で通用することの出来なかったドラマ俳優。
日本で言うトコロのトレンディ俳優から脱皮しそこねた、マックイーンにもイーストウッドにもなれなかった男という設定だけで、その詩情は十二分に広がる。
そんなポップカルチャー界の歴史に埋もれていったすべての俳優達に、監督はエールと希望を込めて、僅かなボタンの掛け違いで銀幕世界に爪痕を残せたかもしれないパラレルワールドを描いてくれた事を、ちょっとだけ頭の隅に留めておいてほしい。
タランティーノの流儀(※以下、ネタバレあり)
そんな幻想劇の鍵を握るのが、実在した新人女優・シャロン・テート。
前述したように、彼女は後に狂信的なカルト信者によって赤ん坊ごと惨殺されてしまうのだが、その実際の夫だった名匠ロマン・ポランスキー監督が、交わる事のなかったifの世界をしっかり結び付けてくれる。
けれど、『ローズマリーの赤ちゃん』や『戦場のピアニスト』で有名な彼のカタストロフィに、敢えて反発してみせるのがタランティーノの流儀。
・・それはまるで、堤幸彦が小津映画を撮り直すかのように・・w
ダルトンがイタリアでその第二の俳優人生に挑戦をしていく様子は、ポランスキーの作風のまさに対極をいくマカロニウェスタン調に、たっぷりとユーモラスに描く。
更にポランスキーの淫行疑惑を皮肉るかのように、わざわざダルトンを慰める子役を登場させてみたり、ブラピ扮するテレビスタントマン・クリフに、ポランスキーと親交の深かったアクションの達人ブルース・リーとの直接対決を実現させてみたりと、フィクションだが、長いハリウッドの歴史の中では、互いにリスペクトしあえる関係にあったのかもしれない業界の裏歴史を大分シニカルに暴いている。
そして実際には、落ちぶれたダルトンとクリフとの別れのタイミングと交差して、シャロン・テートの運命のカウントダウンが始まってゆくのだが、そんな彼女の日常風景に、ユーフォリアを感じさせる様な快活な演出が多いのも、タランティーノなりの愛情なんだろう。
60年代のモダンでアンティークなセットから、デカいアメ車やトレーラーハウス、更にその調度品の細部に至るまで、まさにタイトル通りの昔懐かしいあの頃の断片を散りばめたこの作品に、もし、2018年に急死した往年のセックスシンボル、バート・レイノルズまでが出演していれば、その感慨深さは、更にひとしおだったのかもしれない。。
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