Shaun of the Dead/2004(イギリス)/99分
監督/脚本:エドガー・ライト
主演:サイモン・ペグ/ニック・フロスト、ケイト・アシュフィールド
ゾンビ映画の王道セオリーを・・
パロディ映画だが、なんだか愛おしくなる映画だ。
とりあえず、ゾンビ映画初心者には正にうってつけの愛情たっぷりな作品。
安いヒューマニズム?過酷なサバイバル生活?
そんなメンドクサイものはこの映画には一つも出てこない。
2004年にイギリスで製作されたこの作品は、ゾンビ映画の金字塔『ゾンビ』のパロディではあるけど、よくある只のB級ホラーとは一線を画している。
その証拠に、この映画の監督エドガー・ライトと主演のサイモン・ペグは、ジョージ・A・ロメロが後に製作する『ランド・オブ・ザ・デッド』にもゾンビ役でカメオ出演しており、巨匠達からの信頼も厚い。
作中、ゾンビ映画の王道セオリーを存分に皮肉りまくっている彼らが、なぜそれでも一定の評価を受けているのか?
それはポップでアイロニカルなこの映画を見れば、巨匠達の懐の深さというだけでなく、彼らの描く終末期世界にきちんと熱いメッセージが込められているからの様な気がしてくる。
あらすじ
ロンドンの家電量販店で働くショーン。
職場の後輩に馬鹿にされながら目的もなく日々を過ごし、楽しみといえば同居している親友のエドとのゲームとパブでのビール。恋人のリズのため、一度は現状からの脱却を決心するが、彼女と交わした大切な約束すら守れず振られてしまい、行きつけのパブ“ウィンチェスター”で酒に溺れる始末。
飲みすぎた翌朝、ショーンが目を覚ますと街はゾンビで溢れかえっていた。
愛するリズと大切な母親を救うため、無気力男・ショーンが今度こそ立ち上がる。TOHOシネマズ公式HPより抜粋
遅い思春期からの脱却
この作品のエドガー・ライト監督と言えば、昨今では幼少期にトラウマを抱えた天才ドライバーを描く『ベイビー・ドライバー』が有名だが、この作品にもそんな彼のユーモアセンスは随所に光っている。
まず初っ端から口の空いたバカ面を晒してくれるサイモン・ペグ演じる主人公のショーンは、どこにでもいる様な優柔不断のヤサ男。
恋人のリズとのデートは、毎度行きつけのパブにしか連れて行かず、天然ニートでテレビゲームに明け暮れる毎日から卒業する気もない幼少期からの幼なじみエドはそんな二人の後をいつもついてくる。
そんな彼が寝起きに千鳥足であくびをする描写なんかは、正にゾンビの風体そのものだが、ここに平凡で退屈な生活の気だるさなんかをピンポイントで暗喩してくる監督のセンスはかなり素晴らしい。
それでいて、母親の再婚相手に未だ嫉妬を覚えてしまう様子や、そんな義父をゾンビに噛まれた事をきっかけに殺そうと妄想を膨らませるシーンなんかは、大人になりきれない男が僅かに抱いてしまう繊細な心の機微を見事に表現している。
つまり、このゾンビ映画の見ドコロは、そのグロテスクな描写でも絶望感でも、更にそこから生まれる友愛の精神でさえもなく、仮想世界の延長線上にある少年心から発露するうだつの上がらない男の幻想。
物語の途中から始まるゾンビからのサバイバル劇も、実は主人公が成長していく上でのただのキッカケに過ぎない。
このゾンビ世界と現実との境目のあいまいなトコロが、ありきたりの日常を痛烈に揶揄した上で、その遅い思春期から脱却していく葛藤を鮮明に描いている。
後の作品へと受け継がれていく監督の抜群の音楽センスも健在で、『ボヘミアン・ラプソディー』で再燃したこの作品の劇中に流れるクウィーンのお馴染みのナンバー「Don't Stop Me Now」の音色に乗せたゾンビとの対峙は、もはや完璧なPV状態。
この手の開き直ったギャグが苦手な方にはちょっと敬遠されてしまうかもしれないが、気難しく考えずにゾンビ映画を楽しむ意味においては、これ以上にない見事な演出と言えるだろう。
大味なマーベル系映画『アントマン』の監督を降板してまで若者心を忘れなかったエドガー・ライト監督に加え、ショーンとエドをそれぞれ演じたサイモン・ペグ、ニック・フロスト等と3人で立ち上げた彼らのスリー・フレーバー・コルネット3部作の序章として世に送り出されたこの作品は、近年まで日本ではDVD化さえもスルーされていたようだが、人間ドラマをしっかり見つめているその視点においても、混迷を極めていく『ウォーキング・デッド』シリーズなんかよりも数段上手。
そこにまっとうなオトナに対する不信感と、どれだけ成長しても変わらない少年心をラストにしっかりなぞってくれた監督のゾンビ映画に対するリスペクトが、往年の巨匠の不器用な反骨精神をもきっと突き動かす事ができたのだろう。
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