マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『あゝ、荒野』の私的な感想―寺山修司の魂を引き継いだ菅田将暉の迫力―

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あゝ、荒野/2017(日本)/前後編304分
監督:岸 善幸 原作:寺山 修司
主演:菅田 将暉、ヤン・イクチュン/木下 あかり、ユースケ・サンタマリア、でんでん

 重厚な青春の瑕

久々に強い映画を見ました。

身構えずに見ると、ちょっと火傷しそうになる映画です。

 

2018年の日本アカデミー賞は、大方の予想通り是枝監督が受賞するのは目に見えていたのであまり興味が持てませんでした。

そんな中、ちょっと気にはなっていたんだけど・・的な感じで見逃していた映画がこの作品。

この映画で若干25歳で最優秀主演男優賞に輝いた俳優、菅田将暉には、皆さんと同じく以前から注目してはいましたが、この作品での熱演で同年代の若手演技派俳優の中でも彼はちょっと別格の存在になったかもしれません。

ここまで琴線に触れた俳優を観たのは何年ぶりでしょうか?

私的には『GO』を演じた時の窪塚洋介ぶりくらいな気がします。

只、独特な色気のあった彼に対して、菅田将暉の特徴はそのどこか昭和臭漂う古臭さ

といっても芝居が臭いわけではなく、むしろ平成生まれを象徴するかのような超自然体の演技。


男臭くて中性的?或いは、中性的でいてどこか生々しい?

彼を形容する言葉が自分にはうまく見つかりませんが、往年の銀幕スターの再来を感じさせる、久々に出てきた骨太俳優に見えます。

この映画はそんな彼の若く純潔な感性と、重厚な青春の瑕を描く独特な寺山修司ワールドとが相まって、正に現代の悩める若者達へ向けた不動の青春映画になったように感じます。

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―――仲間との暴行の末、刑務所へと送られた詐欺集団の一員、新次。
出所してきた彼が見る街の風景は、昔より更に軽薄で寒々しく感じる。
一方、床屋で働く吃音を抱えた健二は、荒み切った生活を続ける父親に育てられた韓国人の母親を持つハーフ。
二人はある日街のボクシングジムの前で偶然出逢うが、そのジムで見たのは新次が刑務所に送られるきっかけとなった昔の仲間、裕二の姿。
片目の男、堀口に促され二人は彼のジムでボクシングを始め、やがて新次は裕二への怒りを復讐へと転化させるが、行き場所のない健二はそれに流されるままに、何時しか自分の生きている意味を模索し始める。

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 サブカルから近未来へ、寺山修司が残したモノ

前後編合わせ、およそ5時間半という尺の長さと、アングラ界のカリスマ寺山修司が残した長編小説が原作というちょっとハードな二本柱で、劇場に向かう足が重かった若者もきっと多かった作品でしょう。

しかしストーリーは至ってシンプルで、物語はボクシングを通じて成長していく二人の男の青春映画。

そして見始めると、意外に最後までのめり込んでしまう大きな要素の一つは、この映画が2020年という超近未来を舞台にした一種のSF映画であるというコト。

新次の恋人となる街の売女、芳子は、幼少期に東日本大震災を経験した被災者という設定で、その後母と別れ、大都会東京で独り逞しく生きていこうとするその彼女の様子には、痛切なリアルさを感じます。

更に劇中、唐突に放り込まれるドローンを駆使した自殺研究会の歪な苦悩、格差社会に置ける経済的徴兵制度法案のニュース画面、そしてそれに対しデモ行進を行う薄っぺらい人々の様子は、拳一つで成り上りあがろうと鍛錬を重ねる新次達との絶妙なコントラスト。

歌舞伎町のラブホテルを改装して作られた介護施設で働く新次の描写や、彼の回りを取り巻く倒錯した人々の様子は、歪んでゆく現代社会に対するメタファのようで、寺山修司主宰の天井桟敷のサブカル精神を見事に踏襲し描かれています。

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 拳で交わす、生きる事の意味

実はこの作品の感想を書く事自体、ちょっと躊躇しました。

余りにも激しい俳優と著者のそのエネルギーの集合体みたいなモノに一気に押しつぶされてしまって、上手く表現出来る自信がありません。

同年代とは言え、寺山修司に傾倒してきたワケではないので深くは語れませんが・・

とりあえず見終わった後の感想は、

 

少しぼんやりします。。

 

それは5時間半の疲れからくるものではなく、「生きること」そのものの定義が、少し揺らいでしまったから。

同じボクシングを題材にした『ロッキー』『ALI アリ』で感じるような爽快感はこの作品には微塵もありません。

かと言って『ミリオン・ダラー・ベイビー』『あしたのジョー』のような悲劇で締めくくられるというわけでもなく・・

そこにあるのは、

 

ただ、生きている事だけを必死にもがいた、二人の男の魂での会話。

 

でしょうか。。。

ラストシーンは5日間連続で最終日に撮影されたようですが、撮影現場を知っている人間からすれば、殆ど裸での乱闘シーンを、高出力の照明が焚かれている状態でこれだけ長時間撮影するというのはちょっと聞いた記憶がありません。

更に二人がリングの上で殴り合うカットには、どうみてもアクション指導以上のアドリブでのパンチの応酬が多々見受けられます。

つまり、

ラストシーンにおいてのリング上での二人は、演出の枠を超えた本物の魂のぶつかり合いにまで達していたんじゃないでしょうか?

そしてそれに呼応するかのように、二人を見守る助演俳優陣の描写にも、実に肉厚で生々しい演技ではないリアルな何かを感じてしまいます。

長期間に及ぶ撮影時には稀にある事ですが、俳優達が集中して同じ時間を濃密に共有し続けると、ふとした瞬間に脚本や演出が意図するトコロの更にいっこ上に到達してしまう現象。

ランナーズハイならぬシューティングハイ?

殆ど本物のボクサーにしか見えない二人の神がかった役作りとその演技力には、言葉では表せないほど鳥肌が立ちましたが、そんな彼らが表現した『生きること』と『死ぬこと』が同義語として描かれたこの作品のテーマには、今一度死生観そのものを考え直させられました。

 

『あゝ、荒野』
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