マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『孤狼の血』の私的な感想―実話をモデルにした東映任侠映画史の魂を受け継ぐ者たち―

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孤狼の血/2018(日本)/126分
監督:白石 和彌 原作:柚月 裕子
主演:役所 広司/松坂 桃李、真木 よう子、竹野内 豊、ピエール 瀧、江口 洋介

 時代の趨勢の中で薄れてゆくヒトの痛み

やっぱりこの手の作品には、何時までも日本男児に滾る熱き血潮を感じてしまいます。

久しぶりに映画館で観た邦画でしたが、何とも言えない味わい深い日本人臭さには哀愁を覚えます。

 

一見男のカタルシスな映画に思われがちですが、この作品の原作者は『検事の本懐』で大藪春彦賞を受賞した女流作家柚月裕子

ハードボイルドな任侠の世界だけではなく、昭和史の隅に追いやられた警察の醜態にもきっちりメスを入れている本格派の人間ドラマです。

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・・血生臭さを通じて、しっかりとした人の痛みを感じられました。

ノスタルジーなアニメや青春グラフティな邦画も決して嫌いじゃありませんが、過度に美化され過ぎている幻想世界にはちょっと怖さを感じてしまいます。

 

・・これも時流でしょうか?

 

TOKIO山口達也の記事にも書きましたが、潔癖な理想社会の影では必ずが生まれます。

それは痛覚を覚えずに成長していく人の鈍さ

この映画は、久しぶりにそんな生々しい体と心の痛みを感じさせてくれる本物の人情劇でした。

 

  

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―――広島の架空の街「呉原」の所轄署に配属となった松坂桃李演じる新人刑事・日岡はその街の暴力団との癒着を噂されている役所広司演じるベテラン刑事・大上とコンビを組む事となる。
江口洋介演じる地元暴力団尾谷組の若頭・一ノ瀬や、ピエール瀧演じる右翼団体の代表・瀧井らとも相変わらず人目をはばからずに交流を続けていく大上に、日岡は不信感を募らせていく。
そんな時、新たに広島の地に進出してきた巨大組織・五十子会のフロント企業の青年の失踪事件が起きる。
時は折しも暴対法成立間近の昭和63年。
竹野内豊演じる五十子会傘下加古村組若頭・野崎達が尾谷組のシマで勢力を拡大していく中、地元県警の建前の裏で大上は、泥沼化していく暴力団同士の抗争劇の裏で密かに暗躍し始める・・

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 ショートピースとハイライト

この作品でまず初めに特筆すべきなのは、装飾部の優秀さ。

装飾部とは、映像の撮影現場において小道具、持ち道具、出道具などから看板、冷蔵庫等に至るまでの全ての飾りモノを司る部署ですが、その見事な仕事ぶりには全く脱帽。

予算が豊富な大作映画なわけでもなく、CGやセットで誤魔化せる時代劇でもない。

世間への気遣いからか、この物語は架空の広島の都市を舞台にしてはいますが、その設定は紛れもなく昭和末期の広島県呉市

虚構性を排除したあの深作欣二監督の『仁義なき戦い』の世界観を見事に踏襲し、30年前の地方都市という微妙な時代背景の飾り物を忠実に再現しています。

一瞬写るかどうかのレベルの少し古びたデザインのネオン看板から、一昔前のビニ本、プルタブ式の缶ビールにプルトップに至るまで、滲み出ているきめ細かなスタッフの丁寧さ。。

 

そして愛煙家の自分にとって、印象的だったのは日岡の煙草の銘柄

・・最早、分かる人だけの話ですが、、

原作では両切りのショートピースを吸っていた大上が、ロングサイズの旧式デザインのハイライトを吸っていたのには感慨もひとしお。。。

煙草を吸わない方の為に説明しておくと、

ショートピースは、活動屋と呼ばれていた左翼的思想の映画人の象徴とも言えるきつめの煙草。

対するハイライトは、労働者階級を代表するイメージの大衆煙草。

勘のいい方はお気付きかもしれませんが、この原作からのイメージ変更により、大上の本音が実はもう大分垣間見えています。

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 暴対法と必要悪

一応サスペンスなのでここからはネタバレを含んでしまいますが。

更に映画ブログですが、反社会的な内容を一部含む感想も述べていきますので、夢を見続けていたい方はご遠慮下さい。

 

この物語の順を追って観ていくと、皆さんは大上と右翼系団体や暴力団組織との繋がりに何を感じるのでしょうか?

 

もし彼が只の悪徳警官に見えてしまうのであれば、それは大分浅はかです。

 

平成3年に施行された暴力団対策法によって、指定暴力団及びその準構成員等に該当するとみられる人々の求心力は急激に低下し、組織的な犯罪行為や暴力団の関与する抗争事件は随分減ってはいきましたが、、、

ちょっとここで、2017年にパワーニュース編集部のインタビューを受けた元関東連合幹部柴田大輔氏のコメントを載せてみます。

 ——なぜ、これまでのように暴力団に入らなくなったのですか。

暴力団対策法の強化などでヤクザの勢力が衰退していく中で、世代的な価値観も変わりました。都会に生まれ育ち、当たり前のように渋谷や六本木に進出していった僕らにとって、ヤクザ的な生き方がカッコよく見えなかったのです。つまり、不良の象徴である暴力団に入ることに魅力が感じられなくなった、カッコよく思えなくなった、そんな組織に所属して理不尽に縛られるよりも、もっと利口に単純な暴力だけでやっていけると考える世代になったのだと思います。実際に、街では暴力団相手でもケンカに勝てばやっていけましたから。

 
2017.10.10 パワーニュースより

ここに暴力的なモノではなく、違った意味での恐怖を感じないでしょうか?

『アウトレイジ』でも描かれたように、任侠道を重んじるヤクザの衰退で台頭してきたのはインテリ派頭脳集団の犯罪組織。

彼らには重んじる絆や伝統がないので、利益を得る為には無秩序に殺人を繰り返します。

更に、上下関係や横の繋がりも希薄なビジネスパートナーの様な関係性なので、振り込め詐欺犯罪集団のように、多角化した組織の全体像を把握するのに警察は従来の捜査方法では行き詰っていきます。

 

ここで『孤狼の血』の世界に話を戻して、はっきり言ってしまうと、

 

90年代初頭の日本の警察組織は、反社会組織との繋がりを持って彼らの活動をそれなりに抑止していました。

 

ここまで読んで頂いてから添付してある劇場予告をもう一度見ると、その意味がよく分かる筈です。

 

劇場予告でも流れる大上の台詞、

「警察じゃき、何をしてもいいんじゃ!」

これは、自らをアイロニカルに例える当時の県警のもはや本音でしょう。


そこには互いの利害関係はもちろんの事、劇中で描かれていた様な弱みを握られていた警察官僚も決して少なくなかったはずですが、世間の風潮によってそんな彼らを法律で取り締まらなくてはならなくなった事により、彼らのある意味バランスの取れていた関係性は崩れていきます。 

そして上述したような無差別犯罪集団を産み出した社会が更に迷走を極め、それまでには見られなかった数々の異質な大量殺人鬼を世に送り出してはいないでしょうか?

 

つまり、この社会の必要悪を表現していたのが、実は大上本人なんです。

 

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 東映任侠映画史の魂を受け継ぐ者

この映画の更に秀逸なところは、前章で述べた理解不能な犯罪集団の台頭にしっかりと一石を投じている点です。

 

それは痛覚を持ってして初めてヒトに伝えられる本当の痛み。

 

近年痛みを伴わない映画が世界中で横行する中、まざまざと人間の暴力描写や過去の遺物となった任侠道を見せつける事で、日本人の美徳だった懐かしい感覚を想起させてくれます。

そして、、

現実を知らない潔癖性の象徴だった日岡がやがて孤狼の血を受け継ぎ、カタルシスでは済まされない社会の必要悪を真正面から受け止め、法律では裁けない所で人を見極めていくその成長過程。。

日岡を演じた松坂桃李自体、本作がキャリアハイとなったことは言うまでもありませんが、この泥臭い深作組の任侠劇を時代と逆向してでも再び世に送り出した東映映画の脈々と受け継がれる魂をしっかりと感じられる作品でした。

 

『孤狼の血』は以下のVODで観賞できます。

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